擬アン

□重く
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浮足立つ生徒たち。いつもならとっくに1現目は始まっているはずなのに今日は違う。

保健室の窓の向こうには、ところせましと3年生の屋台がならび、それぞれのクラスのカラーティーシャツを着た生徒であふれている。

今日は、文化祭だ。

しかしまあ、私は今日1日保険医として、ずっとこの部屋にいなければいけない。廊下から女子生徒の楽しそうな笑い声が響いて、ここだけ違う世界にいるみたいだ。

時々、はしゃぎすぎた男子生徒たちが腕に擦り傷を作ってくるがその程度で私はコーヒー片手に外を眺めている。また思い出したみたいに、保健室常連の生徒が、お土産をもってき来てくれる。

「せんせー」

私を慕ってくれている女子生徒が元気に扉を開いた。

「ね、これあげる。先生一緒に文化祭まわろうよ」

なけなしの餌をちらつかせたって、私にきかないことはわかっているだろう。

寂しそうにきらきら笑う。

「私は今日ここから出られないんですよ。」

「ええー」

ぷくりと頬をふくらがすのが彼女のくせだ。それが嫌味にならないくらいに、彼女はかわいらしい。

私は今年、ここにきたばかりだが彼女と他の男子生徒とのうわさをたくさん聞いたことがある。

「じゃぁ、あたしもここにいよっかなー」

なんて、足をのばして、私を困らせてみせる。彼女の友だちは慣れているようで、ため息を吐いて、ここにいついてしまいそうな彼
女を無理やりひっぱっていった。

そういえば。

彼女が置いていった、文化祭の地図を見る。

辛たちの3年8組は、「男装女装喫茶」をやると、この間勉強を教えた辛以外のバスケ部が教えてくれた。ついでに辛が販売係であることも。女装することも。

だからずっと窓の外を見ている。

調度この保健室と向かい合うように、体育館を背に8組の白いテントがたっている。

セーラー服を着た人影をみつけるとよく見てみるのだが、いささか遠くてよく見えない。

あの日から、辛は保健室にこなくなった。

今までは、怪我をする以外にも友だちにつれられて暇つぶしに時々きていたのだが、それすらまったくなくなってしまった。

バスケ部の3年生は、この間県大会が終わり、引退したと聞いている。

部活がおわったなら、来てくれてもいいのに。



●つづく→
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