鬼灯の冷徹

□EVER
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「あの…鬼灯様」
デスクで黙々と仕事に向かう広くて大きな背中に
ひとりの女獄卒が声をかけた。
鬼灯が振り向いた。
彼女は すこしだけ申し訳なさそうな表情を浮かべて 恐る恐る声を出した。「あの……鬼灯様は…この仕事に就く前に…どんなお仕事を……されていたのですか…?」
彼女がなにか企んでいるようには到底思えなかった。自分の過去など 人に話すことに抵抗はなかった。
「…多少……特殊なことでしたね」
特殊 と言う言葉になんとなく引っ掛かる。
「特殊……ですか?」
鬼灯は 目を閉じて下を向いてから 話し出した。
「…遊女の…多くに玩ばれる、と言ったら良いでしょうかね」
不思議そうな 神妙な顏で 女は鬼灯を見詰めた。
「簡単に言ってしまえば…遊女の性行相手、ですか」どこか寂しげな顏で語っている。 彼から立候補するような仕事ではないだろう。
「賊に捕らえられて…言わば奴隷のような扱いを受けてきました」
女は 悲しそうな顏をした。
「…布やら紐やらで、木やら椅子やらに縛り付けられるんです。蹴られ殴られたあとに」
デスクに山積みになっている書類を整理しながら 鬼灯は話す。
「…それからは……遊女に好きなようにされてました。」
鬼灯は 切なそうな顏をした女獄卒を見遣ってから ぼんやりと霞む記憶を辿った。
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