鬼灯の冷徹

□sadist
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鬼灯の前を 同様の黒髪を持つ男が歩く。
鬼灯は この男が嫌いだった。
同族嫌悪というやつだろうか。
特に こんな男の言いなりになるだなんて もってのほか。自分が下に見られるようで生理的に受け付けない行動だ。
『お前にしかできない』と白澤に告げられ 嫌々渋々付いてきた。
力仕事だと言った。
この男の使い走りなど やっていられるほど腹の虫は大人しくないが この男以外の誰の役に立つというのなら 受け入れる。
いかにも穏やかな空気に包まれた 平和以外の何物でもない 天国の桃源郷。和やかな通から遠ざかると 同じ天国とは思えない禍々しい空気を醸し出す 廃れた小さな廃墟に連れてこられた。
不審に思わなかったと言えば嘘になるが 一度 騙されたような顔をするのも 悪くない。
内心 気付いていながら。白澤を警戒し 奴から距離を置いて歩く。
「こっち来て、ここ入って」と促された。
怪訝そうな目を白澤に向けると 白澤は薄く笑みを浮かべた。出す気はないのに 自然と溜め息が漏れた。
仕方無く 古びた廃墟の扉を開けると 廃れた錆の金具が軋む。
中に入ると 背後の扉が音を立てて閉まる。
外界の優しい天国の光が閉ざされた。
薄暗いどころか 廃墟の中は暗闇に包まれて 何も見えない。
だから 隙を突かれた。
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