ONE PIECE

□流れ星と。
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「ん…」
むくりと起き上がり、壁に掛けてある時計に目をやる。
午前2時。周囲を見渡すと、クルーは全員各々心地の良い格好をして横になっていた。
「みず」
半分寝ぼけたルフィが、小さく呟いて クルーの間を縫うように進み 扉を開けて寝室を出た。
目を擦り擦り、コップに水を注いだ。縁から溢れた水が、ルフィの手を這う。
直ぐに飲み干して、無造作にキッチンに空のコップを置く。
「お〜…星だ」
キッチンから寝室へ歩いている途中に、空に輝く星に目を奪われた。確かに、空には一番星が煌々としている。
二度寝するのがセオリーだが、
たまにはいいか と、ルフィはベスト姿のまま、寒空の下へ出た。
「うほ、寒ィ」
ペタペタと、ルフィの足音がやけに広い甲板に響き渡る。
木作りの床も、凍るように冷え切っていた。
「お…すげー光ってんなァ」
船から上半身を乗り出し、星を見詰める。吐いた息が、星空に消えて行く。
「よっ!」
「うおっ⁉」
乗り出した上半身の背中を、どん と突き飛ばされる。前のめりになり、海に落ちそうになった。
「あっっっぶねぇなおまえ、ナミ‼海に落ちたらおれ死ぬんだぞ⁉」
慌てふためくルフィに、にっこりと悪戯な笑みを浮かべる。
「何してるの、こんな夜中に」
首を傾げながら、ルフィの脇に来る。
「…星見てたんだよ」
先ほどの命の危機すらもう忘れてしまっているような、考えていないようなナミの笑みに、さすがのルフィも呆れ気味に言った。
「え⁈あんたもそんなことすんの⁈明日、嵐でも来るのかしら…」
「失敬だな‼おれだって星くらい見るよ‼」
真夜中の甲板に、男女の高い声が響く。
「うるっさいわね‼…ん⁇
ルフィあんた、今日 誕生日じゃない?」
ふと思い出したように、ナミがルフィを見た。
「おっ、そうだった!」
ルフィもそんなことは忘れていた。
「ハァ⁈忘れてたの⁈も〜ロマンの無いやつね!言いなさいよ‼」
でこに手を置いて、ナミが溜息を吐いた。
「おーわりいわりい、おれも忘れてたよ!はは」
ルフィにとって、誕生日とはどのようなものなのだろうか。
横で無邪気に笑うルフィを見た。
下を向いて笑いながら、ルフィは何か言っているが、ナミの頭を巡るのは、ルフィの過去だけだった。

母親はどんな人⁇楽しく暮らしていた⁇どんな子どもだった⁇

「おいナミ‼聞いてんのかー?」
ルフィがナミを覗き込む。
「え⁇あ、うん聞いてるわよ」
流れ星が、すうと空を渡る。
ナミが気付いて声を上げる前に、ルフィが口を開く。
「流れ星だっ!すげー‼」
まるで、小さな子どもの様だった。

「…ねぇ、ルフィ」
「なんだー⁇」
流れ星を指差していたルフィがナミを見る。
「今…幸せ?」
遠くを見ながら、ナミがルフィに問う。
質問の意味がよくわからなくて、ルフィは怪訝な顔をした。
「なんだ?突然?」
「幸せなの、幸せじゃないの⁇」
ルフィは首を捻ったまま、「幸せ…」とぽつり呟く。
「幸せだなー。うん‼多分おれ、幸せだよ‼」
明るい、無邪気な声で 言った。
きっと、今日の誕生日を迎える迄、たくさん辛いことを 悲しいことを抱え込んで溜め込んで生きて来たのだろう。

この先は。

「ルフィ」
「なん…」
幸せになってほしい。
幸せなまま、いて欲しい。
ナミが、ルフィに口付けた。
ナミの温かくて柔らかな唇が、ルフィの細い唇に触れた。
「ん、」
突然のキスに、ルフィが驚いて何か喋ろうとする。

ナミが、パッと唇を離した。
「誕生日、おめでとう。
これからもよろしくね、船長♡」
そう言って、再び微笑む。

ナミはもう一度、ルフィの頬にキスをした。



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