★ブック

□素直に言えたなら
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「俺、先生が好きなんです」



そんなことを言われたのはつい先ほどのことだ。







30分くらい前のこと

放課後、生徒たちも殆ど下校していった。そんなころ坂田銀八は準備室で1人こっそり酒を飲んでいた。そこへ彼の担任するクラスの生徒である土方十四郎がプリントの束を両手に抱えながら教室に入ってきた。プリント持ってきました、そう言い掛けた土方はだらしなく酒を飲む銀八を見て呆れた顔をした。    「なにしてんすか先生」生真面目な土方は、こんな時間から学校で酒を飲む教師に一喝した。
「おー土方ご苦労さん」 そこらへん置いといてと、叱る土方を無視して銀八はだらんと机に寝そべりながらつまみのさきイカを口にした。
「ったく、ちゃんと片付けて下さいね」
土方は机の上に散乱している缶や食べ残しをよけてプリントを置いた。 「土方も飲むか?」
ふざけて、持っていたビールを勧めると土方はまた呆れ顔で「…あんた一応教師でしょ」と言った。
「真面目だなー土方はァ」言いながら銀八は煙草を取り出し火をつけた。
「先生が不真面目なんでしょうが」
「かったーい」
茶化して銀八が笑いかけると土方はわざとらしくないように自然にぱっと目をそらす。銀八はそんな土方には気づかないようだった。
「まーサンキュな土方。気ィつけて帰れよ?」
「…ぁ、うん…」
土方は悲しそうな寂しそうな、複雑な顔をした。「ん、どした土方」
帰らないのか?と突っ立ったままの土方に問う。「ぁ…いや、その」
土方は顔を少し赤くして視線をそらす。何か言いたそうにしては口をつむんだ。
「なーに土方」
銀八が急かすと土方は意を決したように、きっと銀八を見据えた。



「あの、俺…っ」
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