★ブック

□好きなのは
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「あのさ土方」

満月が綺麗な夜だった。漆黒のそらによく似合う銀色が俺に向かって笑いかけた。
「今度会ったら伝えたい事があるんだ」
「はあ?」
絶対言うから聞いてね、と言ったあいつ。なのにあいつはそんな約束も俺のことさえも忘れてしまった。















「君、だれ?」
開口一番がそれだった。
昼間。にぎわう町を歩いてると見覚えのある銀色が目に入った。この間の別れ際に意味深な言葉を言い残していった銀時を見つけた土方は思わず声をかけた。
「おい万事屋…っ」
「え?」
振り返った銀時は、いつもと変わらぬ顔をしていた。
「え、じゃねえよ。この間話があるって言ったじゃねえか」
とぼけてんのかコラ、とガンを飛ばすと銀時はきょとんとした顔のまま首をかしげた。
「俺、君と知り合いなの?」
「…はあ!?」
土方は怪訝そうな顔をした。ふざけてんのかコイツ、と思ったが銀時の顔は至って真面目。人違い、なわけでもない。じゃぁこいつは誰だ…?
「ちょっと銀さんっ!!」混乱する土方の後方から聞いたことのある声が聞こえた。振り返るといつも銀時の傍らにいるあのメガネの少年がこちらに向かって走ってきた。
「もう…勝手にふらふらしないでくださいよ」
はあ、と息を荒げながら近くに寄ってきた新八。 「あ、土方さん」
土方に気付くと新八はこんにちは、と軽く会釈をした。
「さあ、銀さんってば帰りますよ」
「え、あぁ…」
新八に対してもぎこちない会話。明らかに銀時の様子はおかしかった。
「…なあ、何かあったのか?」
土方は正直な疑問を新八に投げかけた。すると新八は顔を曇らせた。

「実は…銀さん、記憶喪失になっちゃったんです」
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