君と見た空

□心の病
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side heroine.


転生から、16年以上の月日が流れた。
珱は原作通りの容姿に成長し、原作通りの能力を持ち、原作通り妖にその命を狙われている。
そしてまもなく、珱はぬらりひょんと会うのだろう。

『珱』
「姉様!」

一言呼びかければ、笑顔で私の元へ来る。
珱は本当に良い子だ。
ぬらりひょんにはもったいないと思ってしまうほどに。

私をまっすぐに慕ってくれる珱が、私も大好き。
だけど珱を見ていると、その先の未来を思い描いてしまうと、時々胸が締め付けられるように痛むことがある。
そしてあろうことか、珱さえいなければと思ってしまうのだ。
そう、私は───。

『ぬらりひょん…』

彼のことが、好きなのだ。
原作を読んだその時から、ずっと。
ここが、ぬらりひょんのいる世界だとわかった時は嬉しかった。
本の中の登場人物だった彼が、自分と同じ世界に、自分にとってのリアルの世界にいるんだから。

だけど、だからこそ同時に思い出してしまった。
彼が、誰と結ばれるのか。
この物語が始まる為に、必要不可欠なその出会いを。

「姉様、何かおっしゃいましたか…?」
『なんでもないわ』

彼が私と結ばれることなどないとわかっていても、諦めきれない自分がいた。
珱がいなければ、未来は変わるんじゃないかって。
珱はなんて綺麗なんだろう。
こんなことを考えてる私とは違う。

ぬらりひょんと珱が出会うまで、あと少し───。



side yohime.

私の双子の姉様──煌姫は、最近、どこか浮かない顔ばかりしているように見える。
今日もいつものように私の部屋へ甘味を作ってきてくださったけれど、やはりどこかおかしい。

姉様の作ってくださる甘味はどこか不思議だけど、とてもおいしくて大好き。
勿論、姉様のことも大好き。
なのに姉様は、私を見るたびにつらそうな顔をする。

「姉様、何かおっしゃいましたか…?」
『なんでもないわ』

───ほら、また。
私を見て、辛そうな顔をして、その後、諦めたような顔をして笑うのだ。
笑いながら私にかけてくれるその言葉。
けれど、それが本当の笑顔ではないことを私は知っている。

どうしたら、貴方は笑ってくださるのでしょう?
私の能力が目覚めたころから、貴方が心から笑うことはなくなってしまった。
私は、貴方の笑顔を見たいのです。

「珱姫様、旦那様がお呼びです」

私の力が現れてからのもう一つの変化、それはこの屋敷へ病人やけが人が訪ねてくるようになったこと。

「…はい。今行きます」
『行ってらっしゃい』
「…行ってきます、姉様」

…今日は、どんな病を患っている人が来ているのかしら。
どんなにたくさんの人の病を治せても、こんな力に意味はない。
私の力で姉様の心の病を治して差し上げることができたら、私はそれだけで良い。
私に、そんな力があれば良いのに。





to be continued... (back)

 

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