君と見た空

□妖の頼み事
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side yohime.


『…退魔刀?』
「はい、花開院の方にいただいて…」

そう言ってその刀を見せると、姉様は悲しそうな顔をしていた。


「お父上も変わられてしまった…姉様も、最近ますます笑わなくなって…」

この退魔刀を見せてから、姉様は、それまで以上に笑わなくなってしまった。
私に笑いかけてくれていても、心の中では泣いていて。
私の、力のせいで…。
私はただ、姉様の笑顔が見たいだけなのに。

「思いつめた憂い顔が、これほど月夜に映えるとは…」
「な、何奴!?」
「そう構えるな…ワシはあんたに聞きたいことがあってきたんだ」

私に、聞きたいこと?
それが、私の持つ力のことだとしたら…生き肝信仰の妖!

「なぁ、あんたの…」

妖が、何か言いかけながら私の手を取る。
私を殺しに来たのか。
そう考えた時には既に、花開院の方にいただいた退魔刀を妖に向けていた。

───ザクッ…ブワァッ

妖の腕を切りつけると、何かがそこからあふれ出す。

「おいおい…そりゃ妖刀か?」

妖の腕から出るそれは止まることを知らず、その勢いを失う気配もない。
このままでは、この妖が死んでしまうかもしれない。
慌てて力を使うと、それはようやく止まってくれた。

「今のは…」
「こ、これは…」

とっさに力を使い治したはいいものの、妖の目の前だったことに後から気づく。
どうしようと慌てる私に、妖が言ったのは意外な台詞だった。

「…あんたの姉も、こんなことができるのかい?」
「え?」
「ワシは、あんたの姉のことを聞きに来たんだ」

この妖は、私の力を欲してではなく、姉様のことを聞くために訪ねてきたのだという。
そんなこと今まで一度もなくて、思わず妖に聞き返してしまう。

「…姉様の、ことを…?」
「そうじゃ。この間、あんたと一緒にいただろう?確か…ぷりんとかいうものを持っていたな」
「あ!あの時の…」

子供の病を治した後、姉様がぷりんを作ってきてくれた時のことを思い出した。
あの時、あの場に妖がいたなんて。

「あんたの姉のこと、教えてくれねぇか?」
「…なぜ、姉様のことを知りたいのですか?」

そう簡単に、教えるわけにはいかない。
姉様は、私にとって大切な人だから。
なのに次の妖の言葉は、またしても私の予想を裏切ることとなる。

「そうだなぁ…平たくいやぁ、惚れたんじゃ。あいつを、ワシの妻(おんな)にしたい」

この者は妖、姉様は人間。
それをわかっていて、こんなことを言っているのだろうか。
真偽を確かめるべく、その瞳を見つめる。

「…偽りではないのですね?」
「あぁ」

そう言った妖の目は真剣で。
この妖とともにあることで姉様がもう一度笑ってくれるのなら、相手が妖だとしても、手を貸したいと思った。

「…わかりました、私も協力します。でも、姉様を悲しませるようなことをしたら、許しませんからね」
「もちろんだ」


それからというもの、妖様は度々私のもとを訪れてくるようになる。





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