君と見た空

□望まぬ過去と未来
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side heroine.

今日は何を作ろうか。
そんなことを考えながら台所へ向かうと、そこには、女中でなく妖が待っていた。

「煌姫、」
『…、ぬらりひょん…』

そう、後に魑魅魍魎の主と言われる妖──ぬらりひょんが。
彼は基本的に、日が沈んでから珱の部屋へ訪れていた。
そのことは、最近、妖の気配を感じるようになった私にはわかっていたことで。
だからこそ、こんな時間に、こんな場所にいるとは思わなかった。

…いや、確かに、妖がいる気配はしていたけれども。
まさかそれが、ぬらりひょんだなんて。

「なんだ。ワシのことを知っておったのか」
『えぇ、まぁ…』
「甘味を作るのか?」
『そうだけど、』
「公家の姫が台所に立つなんて、あんたくらいだろう」
『…そうね。普通のお姫様は、こんなことしないもの』

無意識に自分の両手を見つめる。
私のこの体はこの時代のものだけど、心は違う。
私は所謂、"普通の公家の姫"ではないのだから。

「今日は何を作るんだ?」
『んー…、パンケーキ、かな』
「ぱんけーき?」
『そう、パンケーキ。小麦粉と、卵、牛乳、砂糖を混ぜて焼いたものよ』
「ほぅ、そいつは美味そうじゃ。ワシにも食わしてくれ」
『良いけど…』

ぬらりひょんはそう言って、出来上がるまでの間、ずっとその様子を見ていた。
いつも一人で作っている空間に誰かがいることは新鮮で。
そんな状況も悪くないと思えたのは、この妖故か。

『ぬらりひょん、』
「何だ?」
『貴方でしょ?最近、珱の部屋に来てるのは』
「…気づいておったのか」
『えぇ。何となく、だけど』

嘘。
妖がいることはわかってたけど、気配で知ることができるのは本当にそこまで。
断言できたのは、私が"知って"いたから。

『良い子よね、珱は』
「そうじゃな」
『優しくて、可愛くて、誰かを救える力を持ってる…』
「………」
『…できたわ。これ、珱と貴方の分よ』

お盆に、二人分のパンケーキとハチミツを乗せる。
それをそのまま、ぬらりひょんに手渡した。

『持って行って、』
「…あぁ」





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