黒子のバスケ(短編)

□空回りにカラ間わって
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「日本人てさ、祭りとか行事とか大好きだよなー」

「……なんなのだよ。やぶから棒に」

「いんや。なんとなくそう思っただけ」





ところ構わず目立つ、赤と桃が織り成すラブカラー。




真っ赤なリボンだらけの通り道。



どこもかしこもウィンドウガラスには、桃色にかたどられた愛の言葉。



たまーに見かける黒は、
ポスターの中でチョコをもらう男のシルエットと、準備中のシャッター位なもんだ。



ついこの間までは、赤と白の縁起のいい門松やら餅やら。
もーいくつ寝たらー、おーしょーうがーつー。



その前は、2日に渡る超イベント、赤と緑のデュエット奏でちゃうクリスマスとイブ。
メリークリッスマース。



(忙しいよなー。ま、楽しいからいいけど)




通学路の商店街は、
そりゃもうバレンタイン一色。




――……ヤベ、キョロキョロしてたら酔ってきた。
目ェチカチカするー。




「ふん……それにしても、まだ8時過ぎなのにずいぶんと賑やかだな。
 今日は何かあったか?」




不思議そうに店を見る真ちゃんの目にはどうやら、

溢れかえるほどそこら中にかかれたり貼られたりしている『バレンタインデー』という文字が見えていないらしい。





「今日はバレンタインデーだっつの。よく見ろって」




デカデカとウィンドウに張られたその文字を指差してやれば、




「なるほどな。もうそんな時期か」



じじくさいセリフで返された。

ま、敢えて言いませんけど。
一応共感も出来るので。




「毎年思うが、のんきなものだ。市場戦略で作られた行事だと言うのに」



うっと惜しげに装飾を見上げる真ちゃんは、睫の長い目を細めた。



「相変わらず理屈っぽいなー。いいんだよ。こーいうのは楽しきゃさ」



目には悪いけど、胃には悪くねーし。

その返答がお気に召さなかったのか、エース様はため息を吐いた。




「お前と一緒にするな。俺は正月とお盆と大晦日があれば十分なのだよ」


「なんかじじくせーな」


「うるさいのだよ」




こわいこわ〜いエース様の睨みを横から感じるけど、気にしな〜い気にしな〜い。




「つーか、どうせ真ちゃんチョコもらうだろ?
 だったら儲けもんじゃねぇ?」





言った瞬間後悔した。


いや、別に深入りするほど変なこと言ったわけじゃねーけど。





……その答えによっては結構ズキッと、俺の心臓にクるようなことを言っちまった。





緑間は、一瞬だけ動揺したように眼を大きくした。


でもそれは一瞬のことだけ。



眼鏡のブリッジを上げて、いつもの仏頂面で言った。





「……ふん。俺はいつも断っているのだよ」

「え、マジで?!」


わかりやすいほどひっくり返った声出しちまった。

やばい、ちょっと今の俺の頬筋頑張れ! 緩むな!





「当たり前だろう。貰ったものは返さねばならない。
 そんな面倒ごとを、一々請け負うなんて馬鹿なことはしないのだよ」


それに、


「こういう日に限って渡してくるやつ程、腹の底が知れない。

 何を考えて渡しているのか知らんが、俺は恩義背がましくて嫌いだ」







頬筋が、一気に固まったのを感じた。


いや、頑張って張ったわけじゃない。


自然とこわばった。







……………………わーお。







よく考えれば想像できなくなかった答えだけど、つか実際想像してなかったけど、


別の角度からグサグサッと心に突き刺された。





どんくらいの威力だって?






そりゃぁもう……
昨日妹ちゃんとガラにもなく一緒に作った
カバンの中の誰かさんへのチョコがバラバラに砕けるくらいのダメージは受けました。



つっても、実際物は生チョコだから砕けねーけど。





「……あ、そ。てか、深く考えすぎだろ!!」

「女子を甘く見ない方がいいのだよ」

「真ちゃん女に恨みでもあんの!?」

「俺はでないが、見ていてそう思ったな」



真ちゃんアンタ何見て育ったの!?




「あれは最早恐怖だったな……下駄箱からもチョコ。引き出しからもチョコ。
 机の上もロッカーも体育着の中も、

 あまつさえ自分の席の周辺の机の上に置かれた自分宛のチョコ……。

 決定打を受けたのは、いつも部活で使っている部員しか知らないはずのロッカーの中に入っていた数十個のチョコだったな」



「真ちゃんそんなモテモテだったの!?」



ちょっと色々別の意味でもショックなんだけど! 

つかそれって俺よりもらってねぇ!?

結構毎年もらってたから自身あったんだけど!?





「てか最後の怖っ!」

「だから俺じゃないのだよ!」

「じゃあ誰!?」



真ちゃんは頭痛でもし始めたのか、眉間にしわを寄せてふーっと息を吐いた。



「……黄瀬なのだよ」

「…………あぁ」



なんだよ、モデル君かよ。
超納得したわ。



「紛らわしいな……先に名前言えよ」
「俺の勝手だろう」


再び眼鏡のブリッジを上げる真ちゃん。



はー、なんかもう超疲れた。

朝から一人で騒いでたじゃん。

学校着いたけど、なんかもうダルー……。





「……そういうお前はどうなのだよ」

「へぇ?」


「先ほどの言い草だと、どうせ手当たり次第にチョコをもらっていたのだろう?」

「うーん、まぁな。これでも結構モテてたんだぜ? 残念ながら、ほとんど義理だったけど」

「……俺には理解しかねるが、どうやらそのようだな」



上履きを入れるために開けた俺の下駄箱を凝視する真ちゃん。



何をそんなに見てるんだと思って、見てみると、





「……早速かよ」


上履きの上に、ピンクの包装紙で包まれた箱が置いてあった。




取り出すと、その上にはメモ書きのようなものも置いてある。








『よかったら食べてください 1年3組 阿野』







「誰これ」



知らない子からだった。



「……ぼうっとしているなら先に行くぞ」




その表情は、いつもの仏頂面だったけど、オーラが微妙に不機嫌な気がする。




「ちょっと、真ちゃん待ってよ!」




いや、気のせいじゃない。

でもなんでいきなり不機嫌モードなんだよ?




「早ぇーよ」

「お前が遅いだけだ」






……もしかして、妬いたとか?







いやいやいや、それはさすがに妄想にも……


「なんでいきなり不機嫌モードなんだよ」


「……誰が不機嫌だと? 勝手な解釈をするな」








妄想にも……






「俺にはお前のどこがいいかまったく分からん」






妄想、にも……






「ふん……」







……。







着いた教室で、真っ先に座る真ちゃんの目の前の席に座る。


「なんなのだよ。自分の席につけ」

「いや別になんも?
 ただ、真ちゃんでもそんな顔すんだなーなんて思っちゃったりしただけ」


「ッ……もとからこういう顔なのだよ。うせろ」

「そりゃ不細工ちゃんだな。んじゃエース様のお言葉通りうせるとすっかな」





席から立ち上がる。

自分の席は緑間の席から窓側の方にちょっと離れてんだけど、そこにはいかない。




俺が向かったのは、教室の外。
1年3組。





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