黒子のバスケ(短編)

□緑色の傘E
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間一髪、







笠無は車にひかれずにすんだ。






代わりに俺が車から飛ばされ、大量の雨水を浴びたわけだが……。





命に引き換えたら安いものだ






「雨の日にスピードを出すなんてとんだバカ者だな……!」







なお甲高くクラクションを鳴らして消える車を睨んだ。






視界は悪かったが、番号は覚えた。











後で警察に、スピード違反で電話してやるのだよ。











「……真ちゃ……わ、た……っ」






笠無は

その小さな体を俺の中で震るわせていた。










今にも泣きそうな表情で。






だが、




「お前も! いきなり飛び出したら危ないのだよ!!」



どっと緊張が降りた途端、







泣かれるのは困りものだが、
俺は笠無の危なっかしさに怒鳴っていた。







――言った後、自分でも後悔したのだが。







だけど、


(本当に、ひやひやさせないでほしいのだよ……)







「ご……ごめ……!」






嫌な予感が的中した。


笠無が俺の胸で泣き出してしまったのだよ!?








やはりまずかったか……!






「こんなところで泣くな! ……悪かった、言い過ぎたのだよ。
 
 つい口調がきつくなったが、これはだな……!」






雨と涙が混ざり合ったその頬を流れる滴。


張り付いた髪の毛の間から、

その大きな瞳が、俺を捕らえる。



瞳に映った俺は、



それに動揺し、思わず息を止めた。














「………ぅ…」









俺が黙っていると、嗚咽をあげながらまた泣き始めた。







そして、俺の制服を掴む力が強くなった。















こういうとき、どうしたらいいのかわからないのだよ……。























……そういえば、桃井が前にいっていたな。












『女の子はね、

 安心するまで言葉をかけてあげたり、

 頭撫でたり、優しく抱き締めてあげるといいの!』













したことはないが、やってみる価値はあるだろう。









「……お前が無事で良かったのだよ」








ぎこちなく、小さな背中に腕を回した。



雨に濡れて冷えた髪を、出来る限り優しく撫でた。








やはり体は小さくて、

長い髪も、雨でびしょぬれで――














……これで本当にいいのだろうか。









わからない。












けれど、
濡れた制服の上からわずかに感じる、暖かさ。


暖と呼ぶには遠かったが、








それでもそこには、



人特有の温かさがあった。

















(華奢な体をなのだよ)

























……守れてよかった。









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