黒子のバスケ(短編)

□緑色の傘F
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嗚咽が止まったのを見計らって、

俺はそっと離れた。




放り出したままの、ぐしょぐしょの荷物と傘を拾い、さしてやる。


今更もう、その傘は俺たちにメリットを持たさないわけだが……。



自然とため息が出た。




早く帰って、お互い体を温めなくては風邪を引きかねない。




「……ごめんなさい」







突然、笠無が俯きながら言った。




何に対しての謝罪なのかはわからない。







だが、





「……今回だけ」



「……?」







ぼそっと言った俺の言葉に、頭を上げた。




「今回だけなのだよ。こんな目にあうのは」





少し視線をそらして言えば、





「! ……ありがとう真ちゃん」





先ほどまで泣いていたのが嘘みたいに、


その顔には笑みが浮かんでいた。










――なんなのだよ、それ。



そんな顔をしても、俺は――……。










「……ずるい奴だ」








腹いせにもう一言何か言ってやろうかと思ったが、









「なんか言った?」









言葉が全く出てこなくなってしまった。
















「空耳なのだよ。気が澄んだのなら……」






笠無に荷物を渡そうとして目線を向けた一瞬、



それが目にはいった瞬間。






俺は思わず固まってしまった。




「? ありがと」


「あ、ああ」




そしてすぐに目線をそらす。








(何を戸惑っているのだよ……俺は)







目撃してしまった。



いや、勿論これは不可抗力だ。



俺は荷物を渡そうとしただけで。







(なんで言い訳しているのだよ!)







脳内を埋め尽くす言い訳の嵐。






……一体何に言い訳をしている?




言えるわけが無いだろう!!






(……緑のしましま)






雨で肌に張り付いた制服。


それは案外生地が薄いようで、


ぴったりと張り付いた上半身の胸囲の辺り。




カバンを渡すために落とした目線が、




うっすらと、

しかしそれがなんだかわかるくらいにはっきりと。




緑色のそれは、俺の目の中に入ってきてしまった。






「えーーと、真ちゃん?」


「!?」




ふと、笠無が俺の視界に入ってきた。


首を横にして、疑問そうに俺を見てくる。




もちろん、俺の目の中にはまたそれがはいってきた。



「な、なんでもないのだよ!! いくぞ!!」



慌ててそらし、先を歩く。




「あ、ちょっと!」



笠無が慌てて俺の横に来る。



「真ちゃんいきなりどうしたの?」


「なんでもないといっているだろう。

 それより笠無。

 何も言わずこれを羽織れ」


「は?」


俺は雨で重くなった学生服の上着を脱ぎ、

笠無に渡した。


「え……いいよ! 真ちゃん寒いでしょ?」


「人の好意を無碍にするな! 風邪をひかれたら困るのだよ!」

「そ、そんな怒鳴らなくても」


驚き一歩引く笠無。

いかん、思わずまた口調がきつく……。





俺は一息つくと、自分に言い聞かせるように笠無に言った。




「……いいから、着てくれ」

「……わかったよ。あ、ありがと……」



言われるがままに制服を羽織る笠無。




「真ちゃんのでっかいねー」


こっちの気も知らないで、のんきに感嘆している笠無。




――俺は、何を一人で考えているのだよ。



あまりにくだらないことに頭を悩ませている自分がしょうもなくて、仕方が無い。



体は段々震え、あってもなくても同じだと思っていた上着のありがたみに気付く。




(もういい……早く家に帰ろう)




「……?」


心配そうにこちらを見る笠無だが、
俺は気付いていないフリをして、


また歩き始めた。





(……緑のしましま、か……)









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