黒子のバスケ(短編)

□空回りにカラ間わって
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「あれ、高尾じゃん。どうした?」

「はよ。あのさ、阿野さん……っている?」

「阿野? ……おおいるぞ」

「ちょっと呼び出してもらえねー?」

「いいけど……なんだよ、今日にかまかけて告白でもすんのか?」

「それフツー逆だろ。
 ちげーし、いいから早く」



同じバスケ部の知り合いが、例の子を呼び出してくれた。



……へー? 結構可愛いじゃん。

ギャルっぽい女の子かと思ったから、ちょっと好感度。

でもちょっと地味かなー?


いや、でも結構ストライク。




「た、高尾君!?」

「どーもっす。今ちょっといい?」

「う、うん!」





了解も得たとこで、俺は廊下の隅に向かった。

着いてきた彼女は顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ緊張してるようだった。



「悪いな、朝から呼び出して」

「い、いえ! あ、あの……下駄箱、見たよね」


震える声で、なんとも可愛らしく上目遣いで俺を見てくる。


「見なきゃ靴履けねーって」


「そ、そうだよね……ご、ごめんね、変なこと聞いちゃって」


「気にしてないって。つか、ありがとな。嬉しかった」




あぁ。これは決して嘘なんかじゃない。


誰しもこんな可愛い子からチョコもらえたら羨ましがられるだろう。


中学ん時だったら、飛び跳ねる勢いで喜んでたさ。
うまくいきゃ、こんな可愛いこと付き合えるんじゃねーかって想像してたさ。




脈、あんじゃねーの? って舞い上がってたさ。







「ほ、本当に!? よかったー……い、一応手作りなんだよ?」














でも、













「へー?」





「普段あんまり料理とかしないから……美味しくないかもしれないけど……」










俺って、こーみえて割と、一途だからさ。








「そっか、わざわざありがとな」













今年は決めてんだ。










「でもさ、悪いんだけど……コイツは返すわ」



「……え?」








はにかんでいた顔が、一気に色を失う。


うわー、スゲー申し訳ねーや。











でも、もう決めたから。









【今年は、好きな人からしかもらわない】





って。







「俺さ、今スゲー好きな人いるんだ。

 今年はそいつからしかもらわないって決めてるから、コイツは受け取れない」







つってももう、先手打たれちゃったから貰えないってのは分かってんだけどサ。







「わざわざ作ってくれたのにホントごめんな」

「あ…………う、うん……そっか、残念、だな……」





阿野さんは、今にも泣き出しそうだ。

でも、必死に堪えて笑顔を浮かべている。
罪悪感ハンパねー。




ピンク色の包みは、なぜか質量もなにも変わらないはずなのに、
さっきより重く感じた。



「んじゃ、俺教室戻るから」

「う、うん……それじゃ……」





朝から悪いことしたなーと思いながら、
彼女に謝りながら、

何事もなかったように教室に入った。







教室に入れば、真ちゃんが本を読んでいる。


また正面に座れば、本から顔を上げた。


「遅かったな。どこに行っていたのだよ」

「真ちゃんがうせろって言ったんじゃん」

「……」





むっと顔をしかめると、また本に目を移した。



「ちょっと、まだご機嫌斜めなのー? トイレ行ってただけだって」

「どうでもいいのだよ。読書の邪魔をするな」

「聞いてきたのお前だろ!?」

「……」

「スルーすんなよ!」


そんなやり取りをしていたら、いつの間にかホームルームのお時間に。


結局始終俺の声なんて聞き届けず、馬耳東風。

ずっと本とにらめっこしている真ちゃん。






ったーく、せっかく人が貴重なチョコをわざわざ返してきたってのにコイツは……。






貰えないってわかってんのに信念貫く俺って健気じゃねぇ? 男じゃねぇ?







どう思います、みなさん?







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