黒子のバスケ(短編)

□緑色の傘@〜D
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数分歩いたが、相変わらず雨の勢いは弱まる気配がない。

近くの水路は、今にも水が溢れそうだ。




「ちょ……真ちゃん、ストップ……!」

絞り出されたような声で、隣を歩く笠無が止まった。

言われた通り立ち止まる。


なんなのだよ?


隣をみれば、笠無がまるで走った後のように
荒い呼吸で酸素を求めていた。

「なんでそんなに息切れしているのだよ」

「……早い」

「何が」


「足が……!」

「これがいつも通りだ」

「足幅を考えろォォォォ……」



面倒な……。


「……次からは気をつけるのだよ」


(手間のかかるじゃじゃ馬姫だ)


白く息は白く、かなり気温と体温の差があると見えた。

かいた汗は、きっと段々周りの気温の低さに温度が下がっていくだろう。


(……なんで、俺がこんなことまで)


バッグを開けて、部活で使おうと思っていたタオルを差し出した。


「これで拭け」

「……え? い、いいよ! 悪いし!」

「柔軟剤は使ってあるから安心しろ」

「誰もそんなこと聞いてないよ!?
 そうじゃなくて、タオル濡れちゃうし!」

「タオルは拭くためあるのだよ。
 ここでお前に風邪でも引かれたら、寝覚めが悪いだろう」

「寝覚めって……」


しばらく俺の手のタオルを凝視した後、


「じゃ、じゃあ……お、お言葉に甘えて……」


そういって俺の手からタオルをとる手が震えていたのは気のせいか?


「……明日、洗って返すね」

「柔軟剤は絶対使うのだよ」

「わかってるって。ホントにこだわり深いね」

「当たり前だ。俺は柔軟剤を使っていない衣類布類は認めんのだよ」


なにがおかしいのか、くすくすと笑い始めた。


「……タオルは普通のなんだね」

「いつも普通じゃないような言い方はやめるのだよ」


本当に失礼なやつだ。



「…………」


笠無はしばらくじっとタオルを見つめた。


何をしているのかと思ったら、急に勢いよくタオルに顔を突っ込んだ。


(一々動きが大袈裟なやつだな)


普通に拭けないのか?

まぁ、人それぞれのやり方があるから俺がとやかく言う筋はないのだが……。



ぷはっと笠無がタオルから顔を上げた。

その顔には赤みがある。


(まさか、さっそく熱が!?)


すでに遅かったというのか!?

いや、まだわからないのだよ!




「じっとしてるのだよ」

「え? ……!?」



笠無の額は小さく、俺の手は大部分がはみ出た。

それでも、少しばかりその額が熱いのは安にわかった。


「……少し熱いな」

「なななななななな何をするのだよ!!??」

「顔が赤いから熱があるのかと思って確認して……」

「ないから!! 大丈夫だから!!」

「な、ならいいが……」



少し手を当てただけで、ものすごい剣幕で言われた。

心配をして損をしたな。


「い、行くのだよ! もう大丈夫だから!」


何を慌てているのか、1人で歩き始めた。

後なんで急に真似をし始めたのだよ。



「……止まったり進んだり、忙しいやつなのだよ」


1人歩くその肩に追いついて、俺は自分の肩をそれに並べた。






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