黒子のバスケ(短編)

□緑色の傘@〜D
5ページ/5ページ





しばらく無言で歩いていた。


聞こえるのはやまない雨音だけ。

通りの少なくなった住宅街に入って、たまに車道の水溜りを走る車の音は聞こえる。



ふと、昇降口での高尾と笠無のやり取りを思い出した。



はっきり言ってどうでもいいのだが、

思い出してしまった今、無性に気になり始めた。


(……一体何を話していたのだよ)


「どったの真ちゃん?」


声に横を見れば、笠無が俺を見上げていた。

「難しい顔してる」




不意になる上目遣いに
俺は斜めに視線をずらした。




「……別になんでもないのだよ」



素っ気無く言ったが、逆にそれが彼女に興味を注いでしまったようだ。



「絶対なんか考えてたじゃん! この雨柳様に言ってみなさいっ」

「偉そうなアホに言っても何も解決しないのだよ」

「いつも偉そうな真ちゃんに言われたくないよ!?」


そうやって膨れるさまが、あほそのものだというのだよ。


「バスケ馬鹿のミドリマンには言われたくないのだよ!」

「バスケ馬鹿とは何なのだよ! 
 後ミドリマンというふざけたあだ名と口調の真似をやめろ。

 というか真ちゃんもやめろ」

「嫌なのだよ」


勝ち誇った顔で舌を出す笠無。
どう見ても高校生には見えんな。



「じゃあ私がじゃんけん勝ったら言ってよ」

「なんでそうな」

「はーい、じゃーんけーん」


ぽっ!


「人の話を聞くのだよ!」


とは言いつつ、反射的に手が出た。


「あ、あれ……!?」

呆気に取られる笠無。


「ふん。俺がじゃんけんで負けるなんてありえないのだよ」

「も、もう一回……!」

「まだやるのか」


じゃーんけーんぽっ。


「また負けた……!? 後出ししないでよ!」

「どこを見てそういっているのだよ! 人のせいにするな」

「ぬ〜〜〜〜!」











その後。




21回ほどじゃんけんをして、最後に負けてしまった。

今日のアンラッキーナンバーが
まさかこんなところで出てくるとは思わなかったぞ。





「さ……さぁ白状して、笠無様に言いなさい!」

「とんだ横暴娘なのだよ」


疲れて空気を白くする笠無に呆れて、折れた。



「……大したことではない。

 さっき昇降口で高尾と何を話していたのか気になっただけだ」


眼鏡のブリッジをあげて言えば、

笠無はギクッと身体を硬くした。


「あ、あれは! 何も無いのだよ!!」

「……。言えと言ったのはお前だ」

「本当に何も無いから! 大したことじゃなかったし!」

「大したことじゃないなら言えるだろう。

 言わせたのだから答えろ」



笠無がまた赤くなった。

高尾に耳打ちされたときのように真っ赤に。



(……言うべきではなかったな)



「もういいのだよ」

「……ふて腐れた?」

「言いがかりはやめろ。後下手な勘繰りもな」

「ふて腐れてるじゃん。

 真ちゃんもふて腐れることあるんだね」

「……」



別に受け入れたわけじゃないが、

今何をしゃべっても負ける気がしたので黙るしかなかった。



「ねー真ちゃん、機嫌直してよ?」


笠無がバツの悪そうな顔をして言うが、
その手には乗らんぞ。













丁度十字路に差し掛かるところで笠無が俺の前にふさがった。



「ねー真ちゃん」

「なんなのだよ。いい加減しつこい……」











その先を続けようとした前に




急ブレーキ独特の甲高い音が耳を刺した。










思わず耳をふさぎそうになる音に、背筋がぞっとした。


身体中の体温が一気に下がった。






棒立つ俺たちに、








横から現れた黒い車のライトがあたる。






「……え……っ!?」

「笠無!」




呆気にとられて動けない笠無。

その瞳には、2つの黄色い光。





(なんで動かないのだよ!!!)





俺は無意識のうちに


荷物も傘も投げ出して







「馬鹿っ!!」






反射的に






突っ立っている笠無の手を引いた。




.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ