おがふる

□ねぇ、「ボク」が泣いてるんだけど 5(終)
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「や…やめ…!…おが…」

ようやく解放してくれたときには古市は目尻に涙を溜めていた。
「…古市…」
普段より低いテノールで耳元で囁かれドキリとする古市。

「…ズルい…」
古市が涙目で睨みながら言った。
「男鹿はズルい…

…俺は…もっとズルい…」
男鹿は黙って古市の話を聞いた。

「俺は…キモ市でも、ロリコンでも、ゴミでも…なんて呼ばれたってよかった。
でも、男鹿にはどんどん強い仲間ができて…
いつの間にか男鹿のまわりには強い奴らがいた。

俺は、男鹿に、…仲間ができたのが…うれしかった…
だけど…仲間が、増えるたびに…おれの…おれの居場所がなくなって。
もう、男鹿にとって、おれはいらないって、思うと、…悲しくて…寂しくて…
おれは…おれは!おがのこと…大好きだから!
だから…」
男鹿は古市の震える体を強く抱きしめた。
古市の目から我慢していた涙がとめどなく溢れてきた。

「お前はズルくねぇ!…俺がもっとはやく気づいてやればよかったんだ。わりぃ…古市。」
男鹿が抱きしめた腕にさらに力を入れる。
ふるふると銀色の髪が揺れる。
「男鹿は…なにも、悪くないよ…俺が…『古市。』
男鹿が古市の言葉を遮る。

「俺には、お前が必要だ。だから…もうどこにも行くな。」
男鹿が古市の両頬をパチンと挟んで上をむかせて古市の瞳を見ながら言った。
涙が絶えず流れる古市にもう1度軽く口づけた。

「不満があるなら全部俺にぶつけろ。1人でがまんすんな。
いいな?」
古市の瞳から目を離さずに言い聞かせるように男鹿は言った。

男鹿の瞳に射抜かれて男鹿から目をそらすことがてきない古市。
「古市、いいな?」
男鹿がもう1度。
古市の額に自分の額をコツンとあてて今度は優しく囁いた。

古市は顔を歪ませながらこくりと頷いた。
男鹿がそっと古市の瞳に溢れる涙を自分の指ですくいとってふっと優しく笑う。
それにつられて古市も表情をひきつらせながらも笑った。

その笑顔は、昔見ていた笑顔に少し重なって見えた気がした。
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