企画

□続 無力 1(40000hit、騎虎様リク、「無力」の続編)
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『ねえ、古市くん。あなた男鹿のどこが好きなの?』



夕陽が沈もうとしている無人の屋上。
そこに彼はいた。
フェンスに手を置きぼんやりと夕陽を見ていた。
私は彼にゆっくりと近づいていき、彼の真後ろで止まった。
そしてそっとたずねた。

「ねえ、古市くん。あなた男鹿のどこが好きなの?」

「…いきなり、ですね。」

彼は振り向かずに答えた。


私は彼の横に並び彼とは逆の方向を向いて背中からフェンスにもたれかかった。

ふと横顔を見る。

その顔は夕陽を浴びてキラキラしていて、でもどこか儚げで…。
ああ、綺麗だなと思った。

普段のおちゃらけた様子など微塵も感じさせない。

そんな彼の顔を眺めていると気づいたらしい彼が私の方を向いてにっこり笑った。

その顔はいつもの下心のあるような顔じゃなくて…ただ純粋に「綺麗」としか言えない。


「どこが好きなんでしょうね。
…たぶん…どこが好き、とかじゃあないんでしょうね。

ずっと一緒にいて、気がついたらただ一途に好きになってた。」

そう言ったけど…なぜだろう、私には彼が幸せそうには見えなかった。

「…男鹿と…何か、あった?」
その表情は、古市くんが男鹿と…私たちといるときには見せないものだったから。

「…男鹿はね、本当は俺のこと…好きなんかじゃないんです。」
ためらったあと小さな声で困ったように笑いながら古市くんはそう言った。
え?私はおもわずそう呟いていた。

「男鹿はね…俺のこと好きなんかじゃないんですよ。
本当は、友達だとしか思ってないんです。」

彼のその言葉は自分に言い聞かせているようだった。

「でも、男鹿は…」

あなたのこと大切に思ってるんじゃ…。


「…男鹿は俺のことを確かに大切に思ってくれてますよ。
…でも、それだけ。
男鹿の好きは俺の好きとは違うんです。

…俺は男鹿に好かれていても、愛されてはいない。」

だから…

男鹿は俺を見ていないから…男鹿に見てもらえるあなたたちが羨ましい。






男鹿と鷹宮の勝負がつくとき、私たちは2階から見ていた。
その時…皆が感動しているとき。

私は見てしまった。

肩の上にのっていた古市くん…。

彼の…羨ましそうな、今にも泣きそうな顔を。

その時、屋上でのあの古市くんの言葉の意味が分かった気がした。

男鹿に見てもらえるあなたたちが羨ましい。という言葉の意味が…。

それはきっとわたしたちが不良で彼は違うから…。

わたしたちは喧嘩が強いけど彼は弱いから。

わたしたちと彼は似ても似つかないから…。


彼は、美しすぎるから…。


だからわたしたちは彼が現れたとき、言葉を失った。

「綺麗」だった彼の変わり果てた姿に。
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