企画

□I want to…(古市誕)
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すでに暗くなった帰り道をとぼとぼと歩く。

不意に古市はガッと手首を掴まれた。


ああ、きっとまた男鹿にボコボコにされた奴らだ。
腹いせに俺を殴るんだ。

「おい…」

古市の瞳から耐えきれなくなった涙が零れる。

「何だよ…男鹿。」
泣いている顔を見られたくなくて後ろを向いたまま声の主に…男鹿に話しかけた。

「こんな時間まで屋上で寝てたのかよ…たく…」

じゃあ起こしてくれればよかったのに…

そう言おうと開いた口は言葉を発せられずに閉じられた。


「さっきまでよー、ザコどもに捕まって相手してたんだよなー。
おかげでこんな時間までかかっちまってよー。」

人の気も知らないで呑気に話す男鹿にイライラして…

古市は気がつくとバッと男鹿の手を振り払いそのまま走り去っていた。


家につくなり電気もつけずに部屋に閉じこもってベッドに入り布団にくるまった。

虫ずが走る…。
男鹿にも、男鹿にあたってしまった自分にも…。









「ったく…何だよ古市のやつ。」

自室のイスに腰掛けたまま男鹿はぼやいた。

でも今日の古市はあきらかに…
てゆうかあいつ、

「…泣いてなかったか?」

ぼーぜんと天井をあおぎながら男鹿は呟いた。
とそのとき。

「辰巳ー!」
と部屋の扉がガチャリと開き、姉美咲が顔を覗かせた。

「んだよ、姉貴。」

「これ、明日たかちんに渡してくれる?
ホントは今日渡してほしかったんだけど今朝アンタに渡すの忘れちゃってさ。」

そう言って男鹿に手渡されたのはポッキーだった。

「ポッキー?」
なぜ姉はこんなものを古市に渡すのだろうか?
そう首を傾げていると、

「なに、あんた。
今日何の日か忘れたの?」

「今日?」
はて、何の日だったかと考える男鹿。

「あんたねぇ…
今日は、たかちんの誕生日でしょ?
まさか、自分の恋人の誕生日を忘れてたわけ?」


男鹿はバッとパーカーと姉の用意したポッキーを手に部屋を飛び出した。

後に残された姉はやれやれと首をふるのだった。








来週の月曜日、一緒にいてほしい。

古市に金曜日言われた言葉が頭をよぎる。

「…バカか、俺は。」

思い出されるのは夕方の古市の泣き顔。
忙しかった。ベル坊の世話をしたり邦枝に呼び出されたり…
しかしその言い訳をするつもりはない。

息を切らしながらついたのは古市の家の前。

そういえば、最後に古市と過ごした時間はいつだったか。

だからきっと古市は自分の誕生日だけは男鹿と過ごしたいと願ったのだろう。

男鹿はバカか…俺はともう1度呟いてインターホンを押した。

「はーい。あ、男鹿さん。」

「よお。」

出たのは古市の妹、ほのかだった。

「お兄ちゃんなら自分の部屋にいるよー。」

そう言ってほのかは男鹿を中へ入れた。

悪いな、そう言って男鹿は2階へむかった。
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