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□呼ばれぬ名 7
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「なあ、古市。ちょっといいか?」

古市の机の前に立って、そう言った。

「なに?」

今まで避けていたのにも関わらず普段と変わらないように笑う古市。

「話がある…。」

そう言って俺は古市を連れ出した。



向かった先は屋上。
そこに俺たちは今向かい合って立っている。

「で?話って?」

「お前、本当に悪魔なんだな?」

「…ああ、そうだよ。
お前は思い出してくれないけど。
正真正銘、お前に従えられていた悪魔だ。」

「…俺はどうしても思い出せねえ。
他の奴らのことは思い出したのに。」

「…不思議だな。」

その後しばらく沈黙が続いた。

俺は覚悟を決めて古市にたずねた。

「お前、心当たりあるんじゃねえか?」

古市はまたクスリと笑った。
でもその笑顔はどことなく淋しそうに見えた。

「…心当たりはある。」

「本当か!?」

「でも…それは言えない。」

なんでだ?そう聞くと古市は困ったように笑った。

「この事は、男鹿自身が思い出さなきゃいけない。
俺は、教えられないんだ。」

そう古市は顔を伏せた。




チャイムがなる音が聞こえる。

「戻ろ…男鹿。」

そう言って歩き出す古市の腕を引いた。

「?…おが…っん」

振り向きざまにいきなりキスすると古市は驚いた顔をしたあとやっぱり笑って
「どうした?」
と言った。

キスしたはいいもののキスした理由なんざない。
どうしたものかと悩んでいると古市は下を向いて俺につかまれていないほうの手で俺のシャツの裾を握った。

「古市?」

「なあ、もしもお前が思い出さなくても、思い出しても…。
…今まで通り…俺をそばにおいてくれる?」
下をむいたまま古市は不安そうに言った。

「ああ?何言ってんだ。
当たり前だろ?」

「本当に?どんなことを思い出しても?
何もかもを思い出しても?」

顔を上げた古市の表情は必死で、一体何に怯えているのだろうか?
俺にはわからないが、今にも泣きそうな表情で縋る古市を安心させてやりたかった。
だから俺はつかんでいた古市の腕をはなして、そっと古市の顔を両手で挟んだ。

「当たり前だろ。」

その言葉に酷く安心した表情を見せる古市。


もっと安心させたくて俺はもう1度古市に顔を近づけた。
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