神速の風

□雪の日
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授業中、雪が降りだした。

シンシンと降り積もる雪を眺めながら、冬を実感する。

積もらずそのうち降り止むかなと、思われた雪は放課後になっても止む事はなかった。



雪が積りに積った野球部グランドにて

WさくらんぼWを鼻歌で歌いながら私は雪掻きの真っ最中

疾世
「フ〜フフフ〜♫」

続けて三十分は経つけど、流石は青道の野球部…全然終りが見えない

グランド広すぎ

疾世
「隣どおし〜あなたと〜あたし〜さくらんぼ〜♫」

サビになるとつい、歌ってしまう

まぁ、今は一人だし…いいか。

疾世
「笑顔咲く〜二人〜いつの時も〜隣どおしあなたと〜あたし〜さくらーー?!」

そこにいる筈がない奴と目が合ってしまった。

疾世
「ふ、ふるやん!なんで!なんで居るのっ!」

一年生の豪速球くんこと降谷だ

降谷
「疾世先輩の声が聞こえたんで。」

疾世
「そういう事じゃなくて!、部活は、練習は、」

というか、私そんなに大声で歌ってたの!

降谷
「気温が下がって身体が硬くなるとかで、御幸先輩があまり投げさせてくれなくて…僕は慣れてるのに…」

どこか不機嫌そうなふるやんだけど、今回は御幸に一票かな

疾世
「そういえば、確かにいつもと比べたら筋肉が脆いかも」

降谷
「分かるんですか?」

疾世
「うん。大体はね」

降谷
「疾世先輩は何をしてるんですか」

疾世
「私は雪掻き。マネージャーさん達がやってたのを無理矢理手伝わせてもらったの、今は皆温まってるけどね。」

マネージャーさん達が風邪を引いてしまったら大変だし、このグランドで四人で雪掻きなんて時間が掛かる

疾世
「体力ならその辺の男よりかは自信あるし、ふるやんも室内に入った方がいいよ。」

長話せて風邪引きました…なんてシャレにならないもんね

降谷
「手伝います。元々、僕達が使うものなんで」

疾世
「……え…」

意外な言葉に絶句してしまう

まさか、こんな当たり前で純粋な台詞が野球部員から飛び出すなんて…

疾世
「なんか、感動しちゃった…ありがとうね。でも風邪引いちゃ駄目だから」

せっかくだけど、悲しいかな断らなきゃいけない

降谷
「疾世先輩も風邪引きます、二人でやった方が早いですよ」

疾世
「私はね、このくらいで風邪引くような柔な鍛え方してないから大丈夫、」

とか言ってる間に、ふるやん…いつ持ったの雪掻き…

降谷
「僕も寒さには慣れてるんで大丈夫です」

疾世
「頑固ね……よし、じゃぁこうしよう!」

私は寒さで赤くなっている右手をだす

降谷
「なんですか?」

疾世
「お互いに譲れない理由を抱えた時!勝負をして、決着つけて従わすしかないでしょ!と言う事でじゃんけん勝負!」

降谷
「僕が勝ったら雪掻きを手伝う、でいいですか」

疾世
「モチ!私が勝利したら大人しく帰るんだよ、」

降谷
「分かりました。」

そうして寒空の下、じゃんけん勝負の火蓋が切って落とされた

疾世
「最初はグー」

降谷
「じゃんけん」

沢村
「降谷ーーーーー!!」

そんな時、騒がしい声がグランド中に響きわたった

疾世
「ふぎゃっ、」

降谷
「?!」

思わぬ第三者の乱入に、私は驚きすぎて足を滑らせてしまう

ふるやんが受け止めてくれようとするけど、ごめん!

怪我させちゃ駄目だから…

私は体をひねらして、背中から積りに積もった雪の上へダイブ

ボフッ

疾世
「つっめたぁーー!あはは、」

沢村
「疾世先輩っ!!」

降谷
「生きてますか!」

遠くの方で心配する声が聞こえる

かと思えば、ふるやんがすぐに私を起こしてくれた

疾世
「あはは…生きてるよ、心配掛けてごめんね」

降谷
「どうして、笑ってるんですか?」

疾世
「だって、意外に面白くって…雪の上にダイブなんて小学生以来だったから…あはは」

今になって寒さが増してきちゃったけど、楽しかったからいいか

そんな私とは裏腹にふるやんは、不機嫌そうな目を向けた

降谷
「さっき、」

疾世
「うん?」

沢村
「大丈夫ですかっ!疾世先輩!!」

再び、沢村登場。

私が足を滑らせた所を見て、駆けつけて来てくれたみたい

疾世
「平気!平気、丈夫だもん」

沢村
「すいませんっ、俺が呼び掛けたせいで!」

勢いよく頭を下げる沢村

こういう所は真面目なんだよね…

疾世
「タイヤ君のせいじゃないから、それよりふるやんに何か用があったんじゃないの?」

沢村
「そうだった!おい、降谷」

降谷
「何?」

沢村
「御幸先輩に部屋で体温めとけって言われてんだろ、お前がちゃんと大人しくしてるか確かめに来たんだよ、御幸先輩に言われて。」

ナイスタイミング!

疾世
「どうやら、戻らなきゃいけないみたいだね。」

これで、ふるやんの雪掻きは阻止できたかな?

でも私の予想を裏切り、ふるやんは首を横に振る…

降谷
「今日の部活は終わりだし、」

沢村
「お前だけだろ!他の部員はまだ室内で練習中だっての!」

降谷
「ツーーン」

沢村
「無視してんじゃねぇー!!」



あはは…駄目だ。

このまま二人のやり取りを見てたら、凍死してしまう。

仕方ない…

不本意だけど、凍死を防ぐには折れるしかないかな…

疾世
「今回は私の負けだね、いいよふるやん。手伝ってくれる?」

そう言うと、ふるやんの目が輝く

降谷
「もちろんです」

疾世
「ただし!条件があるよ〜、」

私だって、ただじゃ負けないもんね。

降谷
「条件?なんですか、それ」

疾世
「15分以内に終わらせる事」

降谷
「?!」

疾世
「もし出来なかった時は、一軍の先輩全員に雪玉投げる事♡」

降谷
「?!」

因みに私はかなり本気で言ってたりする

15分以内なら風邪も引かないだろうし、もし終わらなくても面白い事になるしね

私的にはかなりプラスかも

沢村
「二人していきなり何の話しだよ!」

疾世
「ふるやんがね、雪かき手伝ってくれるの…で、どうせやるなら条件付きの方が燃えるじゃない」

最近気づいた事がある

私って意外と勝負好きなのかも(本人以外、知っています)

沢村
「おぉ!そういう事なら、是非ともこの沢村英純もご協力させて頂きます!」

疾世
「そうだね、二人より三人だもんね」

降谷
「……僕が言った時は渋ったのに…(小声)」

ふるやんが恨まし気な視線をタイヤ君に送ってる

ライバル心ってやつだね!

降谷
「…疾世先輩。」

疾世
「うん?やっぱり辞めとく?」

降谷
「いえ、やります。ただ…15分以内に終わらせられたら、北の国から歌って下さい。」



疾世
「はっ!!」

なんでそうなった!

沢村
「ずりーぞ降谷!疾世先輩、俺にもなんか歌って下さい!」

疾世
「いやいやいやいや、私が歌っても良い事ないし、そもそも北の国からは永遠ラララ言うだけじゃない!」

降谷
「でもさっき、春っちのさくらんぼ歌ってましたよね」

沢村
「なにっ!」

疾世
「あーーもう!!、それは蒸し返さないで!」

沢村
「降谷、疾世先輩の生歌聞いたのかっ?!」

降谷
「キレイだった。」

沢村
「ぬぬぬ、降谷の癖に生意気な!クリス先輩も褒めていた歌声、俺にも聞かせて頂きたい!」

疾世
「もう、やめて〜」

恥ずかしいから!

本当に本気で恥ずかしいから!

耳を塞いでその場にしゃがむ

誰か、主に春ちゃんとかマッスー(増子)とか、不本意だけど腹黒メガネでも可。

とにかく、この状況から救い出して!

御幸
「沢村に降谷!二人揃ってどこに消えたかと思ったら、なにしてんだ、俺の話しちゃんと聞いてーーうわっ?!」

一番来て欲しくない奴だったけど、このさえ関係ない

私は近づいてくる御幸に駆け込むと、その背中に隠れた

御幸
「はっ?!、疾世?」

御幸はもちろん驚いてる

気持ちは分かる、私だってこんな状況じゃなかったら御幸を隠れ蓑なんかにしない

でも今は緊急事態

疾世
「あの、暴走投手達をどうにかして!」

御幸
「暴走投手達って…沢村と降谷か、お前ら何したんだ?」

沢村
「なっ!何にもしてないっすよ」

降谷
「…僕が助けようとした時には避けたのに…御幸先輩には真っ先に頼ってる……(小声)」

あれ?

なんか…ふるやんの周りにオーラが見える

疾世
「ふ、ふるやん?」

御幸
「何でオーラでてんだよ、つーかお前らこんな寒い所で何してたんだ」

疾世
「雪かき…」

降谷
「僕はその手伝いを、」

沢村
「俺は降谷を呼び戻しに来て、そんで雪かきの手伝いをする事に」

御幸
「雪かきだ?そんなもん明日には業者の人が来てやってくれんだろ」



……

は?

疾世
「何、それ…え、何情報」

御幸
「ミーティングで片岡監督から、明日は土曜だろ?10時〜12時の間はグランドが使えねぇって降谷、沢村話し聞いてなかったろ」

疾世
「でも、マネージャーさん達が雪掻きしてたよ?」

私の疑問を解決してくれるかのように、そいつは現れた
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