神速の風

□ゲームの深さ
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体育の授業。

今日は雨なので、体育館で卓球になった二年。

疾世
「私の勝ちだね!」

倉持
「ぐ、なんで強えんだよ」

圧倒的な点差ですぐに勝敗がつく

疾世
「厳しい教育の下、育てられた私の苦労の賜物かな?」

倉持
「あー、お前の父さんかなり性格に難あるからな、納得だわ」

疾世の父の顔を思い出した倉持は言葉の通り納得する

疾世
「馬鹿父じゃなくて、警察官のお母さんの方。W強くありなさいWが口癖で…小さい時は何でもやらされたんだから」

柔道・剣道・空手……引っ越すまではほとんど習い事と言う名の修行ばかりだった

疾世
「思い出したら寒気がしてきた、」

倉持
「何となくお前が強い訳が分かった気がする」

その後も、何度か戦った二人だったが勝敗は変わらず…倉持の完敗となった。


ー翌日ー

土曜日の野球部にて

片岡監督
「今日の練習はここまで。各自、体を休ませておくように」

今日は珍しく午前練のみだ

疾世
(まぁ、皆自主練するんだろうけど)

練習が始まってからずっと書き留めていた紙を一つにまとめ、鞄の中へと入れる

疾世
「さてと、どうしようかな」

色んな部活動から助っ人だのなんだのと頼まれ、いつも忙しく動き回る疾世だったが、それも今日はなかった

高島
「この後、予定はある?」

疾世
「うーん…丁度いい機会なので、野球部員達のデータでもまとめてみようかと」

高島
「だったらミーティング室を使うといいわ、テレビもあるから試合中のビデオも観れるし、開けておくから自由に使って」

疾世
「さっすが礼先生!ありがとう」

このやり取りを倉持が見ているとは知らずに、疾世はルンルン気分でミーティング室に向かうのだった。

ー1時間後ー

疾世
「ふぁ〜、お腹すいた〜」

お昼を食べる前に作業に没頭していた疾世は、とりあえず鞄の中にあるお菓子を食べ始めた

疾世
(こうして見ると、やっぱり一年生と二年生…三年生それぞに特徴ってあるわね)

書き写していた紙をノートへと綺麗にまとめていく

ちなみに、一人一冊使用しているので量も膨大だ

お昼を食べ終えた部員達の自主練が始まったのか、音が聞こえてくる

疾世
(とりあえず、一ヶ月分のデータを参考に強化された所を書いて…)

集中モードになった疾世はそのまま没頭し始めた

それから数時間

誰かの呼ぶ声で疾世は手を止めた

疾世
「え?くーちゃん?」

倉持
「誰がくーちゃんだ!ちゃん付けすんじゃねーよ、」

疾世
「あ、ごめんついつい…」

咄嗟に出たあだ名に倉持は顔を赤くする

疾世
「で?どうしたの?」

ここに居る理由を聞いた途端、倉持はニヤリと笑った

これは、何かイタズラを考えている時の顔だ

倉持
「ちょっと休憩も兼ねて、一勝負しようぜ」

疾世
「勝負?…うーん、まぁいいけど」

確かに座りっぱなしで疲れていた疾世は、簡単に受けることに…

疾世
「テイヤー」

すぐさま、ふざけた掛け声と共に右足を倉持の方へと勢いよく回す

倉持
「っぶねぇーだろ?!いきなり何すんだ!」

瞬発的に避ける倉持に、疾世は首をかしげた

疾世
「え?だから試合(ゲーム)でしょ、格闘系なのかなって思ったんだけど違うの?」

倉持
「試合って書いてゲームって読むんじゃねぇー!!普通の唯のゲームだよ!」

疾世
「あぁ!そういう事ね、腕相撲とか指相撲とか…あとは…椅子取りゲームとかかな?」

倉持
「何でいちいち発想が古いんだよ、つーか相撲ばっかだな!」

倉持が突っ込みを入れている所に、沢村がゲームの機械を持ってくる

ついでにニヤニヤした御幸もいる

沢村
「チーター先輩、持ってきましたよ」

御幸
「ばーか、倉持が言ってんのはテレビゲームの事だよ」

疾世
「誰が馬鹿よ!」

次は御幸に向かってストレートパンチをくりだす

あらかじめ予期していたのか、御幸は難なく避ける

御幸
「はっはっはっ、相変わらず能筋だな」

疾世
「うるさい!うざい!で、テレビゲームって?」

御幸
「知らね?リモコン使ってテレビに映るキャラ動かして遊ぶんだよ」

疾世
「実際に私が動くんじゃなくて?」

御幸
「そうそう、言ってみれば指で戦うみたいなもんだな」

疾世
「指相撲のテレビ版?」

御幸
「お前、自分でも言ってる意味分かってねーだろ。」

話しながらも疾世と御幸に軽い攻防を続けている

これは二年生の教室ではほぼ日常化している

沢村は驚きながらそれを眺めている

沢村
「……疾世、先輩?」

倉持
「あー、いつもの事だから気にすんな、あとそっちの線繋げよ」

ちゃっかりと倉持はゲームをするべく手早く用意を進めていく

御幸
「いだだだ」

疾世
「馬鹿と言う口はこの口か!!」

バランスを崩した御幸に疾世が頬をつねっている辺りで倉持の声が掛かる

倉持
「おーい、馬鹿2人準備できたぞー」

疾世
「だから!誰が馬鹿なのよっ!」

頬を膨らませながらとりあえず疾世は御幸の頬から手を離した

御幸
「おまっ、本気でつねりやがったな」

疾世
「いつでも本気だから!で?それが噂のテレビゲーム?」

物珍しそうに疾世はリモコンにあるボタンをそろりと押す

もちろん、まだソフトを入れてないので反応はしない

疾世
「……えい、えい、」

沢村
「疾世先輩、ゲーム知らないんスか?」

疾世
「うん。」

倉持
「ヒャハ、やっぱりな。まぁ正直ここまで無知とは思ってなかったけどよ」

御幸
(こいつ、こないだの卓球でボロボロに負けたの引きずってやがるな)

つまり、倉持は疾世に勝ちたいが為に自分の得意であるゲームで勝負を挑んできた

かくして、細やかなゲーム対決が始まる

ーー20分後ーー

ソフトはゲーム初心者の疾世を考慮して、チーム対戦型の格闘ゲーム…だったが…

倉持
「……」

御幸
「だから!それ俺だって!」

疾世
「え?じゃぁこっち?」

御幸
「それも俺が分身した姿だよ!」

疾世
「んじゃ、これだね!」

御幸
「ばかっそれは味方ーー」

疾世が味方のゲームキャラクターを倒してしまい、ますます戦況は悪くなっていく

そして、倉持や沢村に倒される前にゲームオーバーと画面にでてくる

疾世
「ねぇ、ばカズヤ今度は何で負けたの?」

御幸
「お前が味方を片っ端から斬ったからだよ!なんでそう攻撃的なんだよ」

同じチームの御幸が疲れた顔をするのも無理はない

疾世が自滅するのはもう数十回以上…

疾世
「…うーん、ゲームって難しい…」

まだ本格的な対戦すら始まっていないが、疾世は気に入ったらしく言葉とは裏腹に顔を輝かせている

さすがの倉持も飽きたこのやりとりに当初の目的をとっくに忘れていた

そんな時、部屋の扉が開けられる

春市
「あれ?英純君に疾世先輩?」

亮介
「御幸と倉持も、四人で何してんの?って、ゲームか…成る程ね。」

沢村
「春っち!亮介兄さん!」

小湊兄弟が入ってくる

亮介は状況を見てだいたい理解したようだった

春市
「このメンバーでゲームなんて、珍しいね。」

亮介
「どうせ、倉持辺りが言い出したんでしょ」

倉持
「バレました?ま、疾世の自滅で終わってるんスけどね」

疾世
「お亮、春ちゃん!!なんかね斬らなきゃいけないらしんだけど、斬ると負けちゃうの!」

御幸
「味方を斬るからだろ」

疾世
「敵と味方が分からないんだもん、」

頬を膨らませながら反論する

亮介
「それ、色分けされてないの?」

沢村
「されてるにはされてるんですけど、見えずらいと言うか…初心者の疾世先輩からすると分からないらしく、」

春市
「なら、まずはゲームから慣らしていけばいいんじゃないですか?マリオとか簡単なやつからやってみるとか、」

沢村
「なるほど!流石春っち、俺持ってきますね!」

ーーマリオ開始ーー



……

1ステージで、疾世以外のメンバーは息を呑んだ

今回もゲーム不得手な疾世を考慮して2人チームで挑んだのだが…

御幸
「これって、子供向けの家庭ゲームだよな」

春市
「その、はず、なんですけど…」

亮介
「……」

沢村
「ここまで来るともう才能か!才能ですよ!疾世先輩!」

倉持
「な訳ねぇだろ!どんな才能だよ、お前も平然と亮介さん殺してんじゃねぇ!」

ズサッ

亮介
「"亮介さん"じゃなくて、俺が操ってたルOージだろ?」

倉持
「すんません、そうでした」

開始数秒で、疾世が操っていた国民的キャラがその弟を持ち上げ、敵の方へと投げたのだった

言わずもがな、亮介の操ってうキャラはゲームオーバーとなる

疾世
「いきなりボタン押したら掴めたから、離しただけなんだけどな…」

倉持
「投げ飛ばしたって、んだよ!」

御幸
「家庭用ゲームで殺人起こすとか、ありえねぇ」

疾世
「やっぱりゲームって、奥深い…」

かくしてこの日を境に疾世のゲーム奮闘記は幕を上げられることになった。
 

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