虚飾と踊るEvilphobiA

□幻想の悪夢
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そこは深い闇。
いいや、目を凝らせばうっすらと視界に形が見えてくる。
それは淡い月が照らしているから。
カーテンを隔てた淡い光のように、雲の覆う月がぼんやりと照らすその場所はどこだっただろう。
自分が立っているのはどこだったろう。

…思い出せない。
何も。何故ここにいるのかも。
わかるのは自分の目の前にいる存在と、見たことのない巨大な影。
それは月の輝きを奪うように眩い黄金色を放っていた。

ただわかることが一つあった。
これは決して「普通」の存在ではないこと。
体が信号を発している。
これは危険だと…!
頬を汗が一筋伝う。
信じられなかった。物心つく前から戦いに身を投じていた自分が、最愛の父親以外の存在に、まさか冷や汗など。

「……なんなの…なんなの、このモンスターは…!?」

事実を否定するようにあげた声は、心なしか震えているような気がした。
そして…まるでその声を合図にしたかのように、闇の中に笑い声が響く。
狂喜を孕んだ笑い声…聞いているだけで気分が悪くなる、不愉快な笑い声。

思い出した。
ここはハートランド。先日まで、ワールド・デュエル・カーニバル通称“WDC”が開催されていた街だ。
自分は父親の勧めで、大会の観戦のためにこの街に長期滞在していた。
その長期滞在しているホテルの帰り道。
月が雲に隠れた頃…声をかけられた。
誰なのかはわからないが声がした。
その声に、自分はデュエルを挑まれたのだ。
“WDC”を観戦していたせいか、自分はデュエルにとても飢えていた…デュエルがしたくて仕方なかった。
だから何の考えもなしにその誘いに乗った。
その結果が、得体のしれない恐怖《モンスター》だった。

「ダイレクトアタック!」
「く……」
「《キー・ブラスト》!!」
「きゃああああっ!!」

黄金色のモンスターが攻撃を放つ。
場にカードがない自分はその攻撃を直に受け、ライフは尽き、0を示した。
体中を突き刺すその衝撃は、本当にARビジョンだったのだろうか…。
地にひれ伏す自分に、足音が静かに近づいてくる。
すると次に体がふわりと軽くなる。
布の擦れる音がする…そこで自分は、足音の主に体を持ち上げられたのだと気づいた。
声がした。自分にデュエルを挑んできた声と、同じ声だった。

「お前の力、使わせてもらう」

その瞬間、視界が、思考が深紅に染まる。
同時に自分の奥底に、何かが根付く感覚も…。
だがそれがなんなのかはわからなかった。
すべてが赤く塗りつぶされた刹那、自分の意識は深い闇の中へ沈んでいったのだから―――…。



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