他小説
□本当の顔
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「なぁ、乱太郎。しんべヱ。
夏休み家に帰るのか?」
「私は帰るけど。どうしたの、急に?」
「僕も帰るよ〜」
昼休み。俺は木の下で寝転がっていた身体をゆっくりと起き上がらせた。
木の下は日陰になっていて、もうすぐ夏なのだけど暑くなく居心地が良い。
「…いや。なんとなくだよ、なんとなく」
…正直…………………帰りたくねぇ……。
俺は木を見上げながら春休みの事を思い出す。
『きり丸ー…ぅ!せっかくの休みなんだぞ!バイトばっかしてないで私とイチャイチャしなさいっ!』
『ぅわああ!暑苦しい!!
ちょっと先生やめて下さいよ!ケンカ売ってんですか!!』
『ちがうわい!ちょっとぎゅっとするだけで幸せになれるんだよぉー…お前もそうだろ?きり丸。』
『寝言は寝て言って下さい』
『よし!ちゅーしようちゅー!!』
『どっか行ってろぉおおおおお!!!!!!!!!!!』
………はぁ。もう帰る気も失せるぜ。
まぁバイトはしっかり手伝ってくれるんだけど。
『きり丸。さっき怪我したとこ、大丈夫か?』
『あ、大丈夫っすよ。これくらい』
『―…見せて見なさい。ほら、こんなに切れて…』
『もう、先生ってば心配性っすねー』
『ばかもん!当たり前だろうが。ほら、出来た。』
『ヘヘッ、ありがとうございまーす♪』
『きり丸。こっちおいで』
『な、なんすか?』
『今日は一緒に寝よう』
『一緒にって、同じ布団で?』
『ああ。たまには良いだろう?』
『仕方無いっすね〜』
………ッ
俺は前の土井先生のことを思い出した。
「なんで……ああなったんだ…」
今の先生と前の先生が頭の中を行ったり来たりする。
優しいのは変わらない。
何も、変わって欲しく無かった。
「……きり丸今何か言った?」
しんべヱが首を傾げて俺に問う。
やっべ、聞かれてたか。
「なんでもない」
俺はそれだけ言ってしんべヱからまた木に目線を上げた。
先生。勝手に変わらないで下さいよ。
俺どうしたら良いか分からなくなるじゃないすか…。
本当の先生は一体、どっちなんですか。
本当の先生の顔は―――――……。
end
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