他小説
□妄想という名の願望
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「………ッ!?」
半助を呼ぶ声が聞こえ振り向くとそこにいたのは……
「立花 仙蔵…?」
紛れもなく、六年生の立花 仙蔵であった。
凛とした姿で職員室の戸に背中を凭れ半助を見つめる仙蔵の顔がニヤリという笑みに変わった。
「な、何か用か?」
「……叶えましょう土井先生。貴方の、その妄想を」
仙蔵の不敵な笑みとその言葉に、半助は凍りついた。
これが全ての始まりだった。
続く、
「じゃなーいッ!!変なとこで終わるな!っていうかなんの事だ!!」
「惚けても無駄ですよ?」
声を荒げる半助に仙蔵の後ろから顔を出し言った。
「な…っ、兵太夫!??」
何故か自分のクラスの生徒がそこに居るのとこの異常な事態に半助は冷や汗が絶えない。
そんな半助を嘲笑うかの如く仙蔵が指をパチンと鳴らす。
シュバッ!!!
「髪結いで気分も心も晴れ晴れしましょう土井先生♪」
「この滝夜叉丸にお任せください!!」
「大丈夫ですよ!別にとって食おうってんじゃないんですから安心して下さい!」
今度は半助の目の前に斉藤 タカ丸、平 滝夜叉丸、食満 留三郎が姿を現した。
「……………」
半助は黙って唾を呑み込んだ。
コイツらは一体何を企んでいるんだと、相手を探る。
そんな半助をよそに次々と姿を現す生徒たち。
次に仙蔵と兵太夫の後ろから現れたのは伊賀崎 孫兵と孫兵の連れている蛇に引っ張られる潮江 文次郎。
「ほら、潮江先輩ちゃんと歩いて下さいよ」
「嫌だ!何故俺がこんな……助けて下さい土井先生!!」
「はぁ!?」
孫兵の蛇に巻き付かれジタバタ半助に助けを求める文次郎に半助はコイツらは一体何がしたいんだと首を傾げた。
(コイツらには私の気持ちがバレている…!?)
半助はまたも冷や汗を溢れさす。
そのまた後ろには溜め息を吐く不破雷蔵と川西 左近の姿があった。
「土井先生。先輩達の言う通り僕たちは土井先生の気持ちも全て知っています。」
「なっ……」
雷蔵の言葉に顔をひきつらせる半助。
「でも大丈夫です。僕たちは先生の味方ですから。」
次に言ったのは左近。半助は左近の言葉にピクリと眉を下げた。
「な、なんの話……」
「まだ惚けるおつもりで?」
仙蔵は兵太夫に目で合図をし兵太夫はそれに頷き、話し出す。
「その妄想ノート…」
「ッ!?」
半助の顔がさっきよりもひきつりが酷くなり今にも泣き出しそうな顔をした。
そんな半助に慌てて不破雷蔵と左近が助け船を出す。
「土井先生!大丈夫です、から最後まで聞いて下さい。さっきも言いましたが僕たちは先生の味方です」
「信じて下さい。」
半助は真剣な表情で話す二人、そして周りにいる仙蔵たちに分かったと告げた。
「…では私からお話しします。
そのノート、誠に勝手ながら読ませて頂きました。」
「…………」
半助はもう何も言わず黙って仙蔵を見つめた。
「……土井先生の妄想を、叶えてみせます。どうか我々の力を土井先生にお貸ししたい。」
そこまで聞いて半助は耐えられなくなったのか立ち上がった。
「……勝手な事をするな!気持ちは有り難いが私は…」
「…勝手、ですか。確かにそうですね」
仙蔵は半助の目を黙って見つめた。
「ですが―――」