海賊

□Please merry me!!!
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『すきだ……!』

そうへたれた顔をしたサンジに告げられてから、約一ヶ月が経った。
中学を卒業して間もなく、世にいう"恋人"になった2人だが、関係にはこれと言った変化はなく、あっさりと時間は過ぎていった。

「ぞぉーろ、帰るぞ」

部室の後ろのドアから黄色い頭をひょっこりと出し、目が合うと、奴はにんまりと笑った。

「…なんだ」
「いーや、なんでも。早く着替えろよ〜」

ひらひらと手を振って黄色い頭は見えなくなった。

「今日も忠犬は元気ね」

ニヤニヤと笑いながらひやかすナミにも慣れてきた。
いつのまにか、ああやってゾロの帰り支度を待つサンジの姿から、サンジは"忠犬"と呼ばれるようになった。

たしかに、じっと見つめてくるから構ってやれば、嬉しそうに頬を緩めたり、頭を撫でられて喜んだりするあたりは犬のようにも見えなくはないが、犬なんかと付き合う趣味はないとナミに言ったとき、涙を浮かべるほど笑われたこともある。

「おら、終わったかよクソマリモ」
「…うるせぇ眉毛」

エナメルバックを肩に下げ、ナミに部室のキーを投げつけてその場を後にした。


「なぁ、今日コウシロウさんいんの?」
「あ?いるんじゃねぇか?」
「あー、そっか」

少し残念そうな顔をして自転車の鍵をつけた。
ガシャンと自転車のスタンドを外して少しだけ進み出すのを横目に、ゾロはスタスタと歩みを進める。
ちらりとサンジを見てみれば、僅かに唇を尖らせている。

ゾロの家は門限が厳しい。
高校生ながら門限七時。
過ぎようものなら説教が待っている。
出来るだけ長く居たいのも山々だが、部活もあるためそうはいかない。
養父のコウシロウや、姉のくいながいない時は少しだけながく居れるのだ。

「…一人暮らししてぇな」

思わず、といってでた言葉に、サンジはキョトンと目を瞬かせた。

「コウシロウさんやくいなには悪いが、一人なら楽だろうな」
「…一人暮らしなんだ」

サンジの特徴的な眉毛がゆるりと下がる。
そのわざとらしさに、ゾロは僅かに苛立った。

「なぁ、ゾロ。一人暮らしじゃなくて一緒に住もう?一緒に寝よう!」
「…あぁ」

それも悪くないと思って言ってやれば、サンジはまたニコニコと機嫌良さげに笑う。

「よし、じゃあゾロ!今すぐ俺と結婚しろ!食うには困らせねぇ!」
「はぁ?いきなり何言ってんだ」
「だから!結婚しろっつったんだよ!」
「お前…」

女なら喜ぶことだろう。
しかし、男同士となれば話は別だ。
まず結婚はできない。
養子縁組をすれば一応籍は同じになるものの、8割方サンジの思い描いてるものとは違っているだろう。
それに

「…食うには困らせねぇってお前、ただ作るのが得意ってなだけだろ?それで金稼げるなら話は別だがな」
「うっ…そ、それは盲点だった…!

う〜ん、う〜んと唸り声をあげながら何かを思案するサンジ。
平然とツッコミを入れたゾロも、サンジの突然のプロポーズに内心動揺していた。
嫌じゃない、むしろ……

「…おい、眉毛」
「ァあ!?だから俺は眉毛じゃ…」


ちゅ。


サンジの額に、触れるだけの、キス。

「結婚できる歳になったらよ、そんときはちゃんとまたプロポーズしろよ?」

サンジが真っ赤な顔をしながら、おうっ、と返事をするもんだから、何だか笑えてきて。
ぎゅう、とゾロを抱き締めた腕を振り解こうとしなかった。
あまりの力に、サンジの鎖骨に当たる頬骨も、抱き寄せるサンジの腕も痛かったけれど。

少しだけ、幸せに感じた


「少しだけ、な」





END.
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