短編
□携帯で繋がる関係
1ページ/6ページ
目が醒めた。
分厚く、色の暗いカーテンから、朝の光が漏れている。
部屋が暗いことが分かるだけの、弱い光だった。
絶妙な暗さ。
まるでいけないことをしているような雰囲気を醸し出す。
頭がガンガンして痛むし、若干吐き気もする。
随分と気持ちの良くない朝だ。
それでも疲れて重たい体を起こして、コウはあたりを見回す。
散らばったであろう、自分の服を探すために。
真っ白の薄いシーツをたぐり寄せて、大して綺麗でもない体を覆いながら。
隣まで目線を向けていたコウは、そこで初めて、ローがまだ寝ていることに気付いた。
びっくりして、動きが止まる。
ローは随分無防備にすやすやと寝ていた。
珍しい。
ローのここまで熟睡した顔を見たのは初めてだなとコウは思う。
横になって寝ているローの上半身が、やけに目立つ。
綺麗な体だ。
鍛えられて引き締まっている体は、程よい細さ。
両耳に光っているピアスが、整っている顔を引き立てている。
寝ている時でさえ格好いいのだから、憎らしい男だ。
ローを起こさないよう慎重に手を伸ばして、携帯の時刻を確かめた。
3:30
早い。
朝日が差すには早すぎる。
恐らくは、朝日だと思っていたのは、外のビルのネオンだろう。
ここはホテル街だから。
意味もなく起きてしまったが、コウには二度寝どころか、ここに居続けるつもりすらなかった。
ローとの間には暗黙の了解がある。
“各で勝手に起きて、勝手に帰る”。
医者の卵であるローには、朝早くとはいえ、のんびりしている時間はない。
たいていコウより先に起きて、さっさと大学病院の方に向かってしまう。
先にローが予約して前払いしてコウに連絡し、二人で夜を楽しんだとしても、
コウが起きた時ローは既におらず、チェックアウトだけしてホテルを出る。
これが、いつものパターンだ。
今でもコウは、起きた時にローがいないことに切なさを感じるけれども、
実際に早くに起きて、隣で寝ているローを見るのは、それはそれで慣れない。
居心地が悪い。
可愛いとは思うけど。
溜息をついて、重たい体を酷使してベッドから起き上がる。
服はどうやら床下に散らばっているようで、コウは寝起きの低血圧でふらふらしながら、それを集めにかかった。
着てきた時のキャミを着て帰れた試しがないから、常にもう一枚常備しているし、定期的に補充している。
いつ呼び出されてもいいように。
何枚破られてもいいように。
ローはいつも唐突で性急だ。
情熱的に、というのとはまたちょっと違う。
苦しそうな顔をして、力一杯にコウを抱きしめる。
終わった後も、なかなか離さない。
その動作は、見方によってはコウを繋ぎ止めておくのに必死なようにも見えるけど、
期待こそすれ、それはあまり現実的な見方じゃない。
なぜなら、ローの相手をしている女は他にも多数いることを、コウは知っている。
それなのに、コウはローに夢中なのだ。
あーあ。
抱いてもらえるだけマシと考えてしまう自分が、情けなくてたまらない。
けれども、ローを突き放せるだけの度胸はなく、ローを勝ち取れるほどの器量もない。
いつだって捨てられる可能性があるのに、コウにはそれを防ぐ術が何一つない。
破かれたキャミソールを拾い上げてバックにしまい、
コウは憂鬱な気分で、迷いながらメモを残して、ホテルを出た。
あと何回、このホテルに来られるか分からない。
ローがコウを捨てたら、それで最後なのだ。