ゼルダの伝説 時のオカリナ ソウル・リベレイター
□第1章
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……今から昔、それは遠い昔のことだ。
このハイラルという地に危機が迫っていた時期があった。
それは約500年前にガノンドロフというゲルド族の魔王によって混沌とした日の訪れだった。
全ての民は魔王の前にどうすることも出来ず、ただ平和な日が来ることを神に願うしか出来なかった。
コキリの森…
コキリ族と呼ばれる大人にならない種族が住む森…私はそこにいる。今なお生きる子供達を見守っている。
しかし私の先代のデクの樹は魔王の呪いによって命尽きた。
先代のデクの樹が死に、私が生えたころ…ある青年が現れてこう言った。
「ガノンドロフを倒す」
遥か昔のことだがその青年はとても凛々しかったのを覚えている。
まだ小さかった私でも先代のデクの樹から聞かされた青年の使命の重さには心を痛めた。
それでも青年は戦った。明るい未来のために。オカリナの音色に導かれ――。
そして…願いは聞き届けられた。
緑の衣を着た青年。青年の背には伝説の剣を。手の甲には勇気のトライフォースがあった。
全ての民の祈りを聞いた青年は『時の勇者』となって6人の賢者と共に魔王と戦い、勝利した。
呪われた魔界は浄化され、ハイラルは元の美しい姿を取り戻した。世界に光が戻ったのだ。
それが今語られている昔話…
……そういえば妖精を持たぬ子がいたな…
コキリ族はみな自分の妖精を持っている。それが生涯のパートナーになる。
妖精を持たぬあの子…名は確か…『シモン』……
「ん…」
木の香りが広がる室内に少年が眠っていた。
少年は幸せそうな顔で寝返りを打っている。さらさらと金髪が寝返りを打つたびにこぼれ落ちた。緑色の服と帽子をかぶってまるでピーターパンを連想させる。
「むにゃむにゃ…」
しかし見るたびに少年の体が斜めに傾いていく。
そしてついにバランスを崩して――――。
ドッス〜ン
「痛あぁ!?」
華奢な体が地面に叩きつけられ飛び起きた。さらに顔面を強打したので顔に鈍い痛みが走る。
「う〜ん…ふあぁ」
しかし少年は気にすることなく気持ちよさそうに伸びをした。窓から射し込む朝日がまた心地いい。
この少年はシモン。コキリ族という種族の少年である。この少年が着ている服がその証である。そしてコキリ族である証がもうひとつあるのだが…
「お〜いシモン!」
ん?誰か呼んでる。
シモンは部屋を出て声の主を探した。
「シーモーンー!」
下から声がする。シモンは身を乗り出して見てみた。
下にはシモンと同じ背丈の少年がいた。赤い髪が風でさらさら流れている。横には何か光を放つ物体がふわふわ浮いていた。
「エリック?どうしたの?」
シモンが尋ねる。
この少年はエリック。シモンとおなじコキリ族でシモンの血の繋がってない兄である。しかしシモンは本当の兄のように慕っていた。コキリ族の中では唯一剣を持っており、その剣術も優れている。
「シモン!今日はデクの樹サマのお話の日だぞ!」
「……あ、そうだった!」
突然シモンは顔色を変えて急いではしごを降りた。が、寝起きということもあってか足がもたついて落下した。
「いでっ」
草むらに顔面をぶつける。朝から顔をよくぶつけるなぁ。
「大丈夫か?」
「う、うん…」
「まったく…朝から騒がしい弟気味ね」
エリックの横にいた発光体が言葉を放った。発光体は薄い透明の羽根をパタパタさせている。これがコキリ族のパートナーの妖精である。
「そういえば…妖精はまだ来ないか?」
「うん…」
「そうか…」
コキリ族はそれぞれ妖精を持つのだがシモンはコキリ族の中で唯一妖精を持たないコキリだったのだ。なんでかは分からない。
エリックはシモンの手を引っ張って駆け出した。
「ま、それより早くデクの樹サマのところに行こう!」
「うん!」
「遅れてごめんなさーい!」
森の奥地の開けた空間に二人の声がこだました。中心には巨大な樹があってその樹の根本にはすでに仲間のコキリが集まっていた。仲間の視線が兄弟に注ぐ。
「遅いぞ!妖精なし!」
「うるさいなぁ」
シモンはムッとして頭をぽりぽり掻きながら返した。妖精を持たないシモンについたあだ名で書いて字の如く。
そんなやりとりを見ていた中心の巨大な木、デクの樹は静かな声で笑った。
「ふぉっふぉっふぉ、いいんだよ。何かあったのかと心配してしまった。さ
あ早くお座り」
「はーい」
エリックとシモンは最後尾に座る。
そしてデクの樹は優しい声音で話を始めた。
「今日もおとぎ話を聞かせてあげよう。時の勇者についてじゃ」
その話が出た途端ざわめきが走った。
「リンクだ!」
「早く聞かせて!」
「慌てるな、慌てるな。いい子にした者にだけ聞かせてあげよう」
とデクの樹がいうと一瞬で静かになった。みんなこの話が聞きたくてたまらないのだ。
「……いいかな?では話すとしよう…」