ゼルダの伝説 時のオカリナ ソウル・リベレイター

□第2章
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「エリックが崖から落ちた!?」

レオルドが大声で叫ぶ。シモンは頷いたのかよくわからなかったが首を小さく縦に振った。
今は夜中でシモンは命からがら逃げ帰ってきた。途中助太刀に来てくれた兄のエリックのお陰で。
しかしその兄は崖から落ちてしまったのだ。

「そんな…」
「マジかよ…」

レオルドを始めとするコキリ族の面々がざわつき始める。夜中だというのに虫の鳴き声よりうるさくなっていた。

「静かにしなさい」

重く、威厳のある重低音が上から聞こえた。デクの樹だ。そのデクの樹の声でシモンはびくっとはねあがった。

「シモンよ、エリックが崖から落ちたのは本当か?」

デクの樹はやさしくシモンに問う。
だがシモンは泣きじゃくるばかりだった。

「ごめんなさい……ごめんなさい…」
「うぅむ…」

デクの樹は視線(?)を全員にやった。

「よく聞くのじゃ。仲間が今生死の境をさまよっておる。かといって今出るのは危険。だから夜明けに探しにいこう」

全員「はい」と返事をして解散となった。

「さ、帰ろうぜ…」
「ぐす…ひっく…ごめんなさい…」

シモンはレオルドに連れられ帰宅した。ベッドに寝かしつけられレオルドが「また明日」と言って帰っていった。
シモンはベッドに入ってからも泣き続けた。いつもなら隣にある兄の温かい感触がない。そう考えると涙が再び溢れて頬を伝った。その繰返しだった。
しかしシモンも泣き疲れて睡魔に襲われた。抵抗する筈もなくシモンは目を閉じて眠りについた。

「エリック…」




『ぐすっ…えぇぇん!!』
『どうしたんだシモン!』
『え〜ん…うぇっ…』
『……また仲間に妖精なしってバカにされたのか?』
『うえ〜ん…』
『まったく、困った奴等だな。後で兄ちゃんが懲らしめてやるから、な?』
『ひっく…うん…』




「……ん…」

朝日が目を直撃し、シモンは起床した。いつも通りの欠伸をする。

「ふぁ…エリックおは」

シモンは固まった。忘れるわけがない。昨日の出来事を。
シモンはベッドを見た。枕が湿っている。そうだ。

「……う…」

涙がまた出てくる。嫌だ。もう泣きたくない。
しかし涙は自分の意思に反対して出てくる。
そして涙が流れる感覚が分かると何かのリミッターが切れた。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!」

失意が波のように押し寄せてくる。

「……」

泣いてる場合じゃない。
今頃仲間が兄を探してくれているはず。

「行かなきゃ…」

シモンはベッドから降りて家を出た。

「シモン!」
「……レオルド?」

家に出た途端、レオルドが走ってきた。

「レオルドどうしたの?」
「……エリックのことだよ」
「!」

シモンは急いではしごを降りた。

「エリックが!?見つかったの!?」
「いや…とにかく来いよ」
「?」


レオルドに来いと言われ来たのはデクの樹の元だった。

「ここは…デクの樹サマ…どうして…」
「これだよ」
「ッ!」

目の前に出されたのは日の光によって銀に煌めく刀身だった。
そしてその剣には見覚えがあった。

「この剣……エリックの……」
「レオルドが崖の近くで見つけたのだ」

デクの樹が言葉を発した。

「レオルドが……」
「あぁ…だけど…エリックはいなかった」
「……」

シモンは剣を握った。ほどよく手に馴染んで使い込まれた感じがある。

「だがエリックの手掛かりが見つかったのだ。まだ生きてる可能性が…」
「無理だよ…」

デクの樹の声をシモンが遮った。

「シモン?」

「だって…エリックは崖から落ちたんだよ…生きてるなんて…あり得ない…」
「シモン……」

剣を握りしめて唸るように喋り続ける。押し殺したような声だ。喉の奥から絞り出すように叫ぶ。

「生きてたとしても…きっと大怪我してる…そこで魔物に食べられて終わりだよ…エリックは死んじゃったんだよ!!」

シモンは思いを爆発させて走り出した。

「お、おいシモン!!待てよ!」
「やめておきなさい…」

デクの樹がレオルドを止める。

「やはり……あのような小さい子には……」






シモンは走って走ってベッドに潜り込んだ。
兄の死は認めたくなかった。だけど認めるしかない。確信的だからだ。崖から落ちて助かる余地なんてない。

「エリック…」




『よし、いいぞ!兄ちゃんが腕によりをかけて作ってやるからな!』


僕があんなこと言わなければ…

家を…出なければ…


涙はもうでない。枯れ果てた。

「……」



『ふーん、ふふ〜ん…ふーん、ふふ〜ん…』
『兄ちゃん、なに歌ってるの?』
『子守唄だよ。確か…何とかの子守唄…あ、思い出した!『ゼルダの子守唄』だ』
『ぜるだ?』
『ああ、この森から出て見えるハイラルの城にいたお姫様だよ』
『お姫様!?会ってみたいな…』
『ははは。もう何年前のことらしいからな…会えないよ』


「……ゼルダの子守唄…」

思い出した。エリックがよく歌ってくれた子守唄…もう……聴けないんだ…。
シモンは床に放り投げられたエリックの剣を見た。放り投げられたというか床に刺さっている。
エリックが愛用してた剣だ。よくこれで稽古をしていた。

『勇者になれるさ』

「……」

やっぱり認めたくない。行動もしないで認めたくない。
兄はどこかで生きてる。

「エリック…」

シモンは床に刺さった剣を引き抜いた。
兄を探しにいこう。この剣を持って。そして届けるんだ。エリックにこの剣を……

「……よし!」

シモンは家を出てはしごを降り、とある場所に向かった。
そこは森の入り口…シモンからすれば出口だった。
初めて森から出るんだ…。
仲間には黙っていくつもりだった。絶対止められるから……
シモンは一歩足を踏み出した。

「待てよ」
「わー!」

思わず大声をあげた。後ろにいたのはエリックの友人、レオルドだった。

「れ、レオルド…」
「行くのか」
「……」

無言を貫く。ここで堂々と言えば止められる。そう思ったから。

「もう一度聞くぜ。行くのか?」

レオルドの声ははっきりしている。シモンも覚悟を決めて堂々と答えた。

「兄を……エリックを探しにいく」
「……そうか」

あれ?止められるかと思ったがレオル
ドは笑っている。

「全く、やっぱ兄弟だな。エリックにそっくりだよ」
「そう……かな?」
「これ、持ってけ」

そう言って出したのは頑丈そうな盾だった。

「これは…」
「エリックに作らされたんだよ。たく、言い出しっぺのくせして使わねぇんだもん」
「……」

シモンは僅かに微笑んだ。そして盾を受け取り、背中に背負った。

「ありがとう」
「あぁ…絶対エリックと一緒に帰ってこいよ」

シモンは森を出た。
レオルドは少し寂しそうな顔をして少年の背中を見つめ続けた。



シモンの冒険が、始まったのだ…

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