ゼルダの伝説 時のオカリナ ソウル・リベレイター
□第3章
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真っ黒な空にはいくつもの宝石のように光輝く星が散りばめられていた。森で見た星空と同じだ。
シモンは頭をあげながらハイラル城の周りを歩いていた。
「あ〜あ、早く朝にならないかしら」
ふよふよ浮いた光るものが喋った。辺りが暗いのでより明るく見える。
「そもそも開くのかしら?」
アルマの言葉に不安が混じった怪訝な表情を見せた。
「そういうこと言うのやめてよ」
「なんか怪しくなっちゃうのよ」
「もー…」
正直シモンは焦っていた。崖から落ちた兄が生死の境をさまよっているかもしれない。いてもたってもいられない状況なのに。シモンは唇を噛み締めた。
「……」
そんなシモンを見てかアルマがすっと近寄ってきた。
「ね、せっかくだからお兄さんのこと色々教えてよ」
「エリックのこと?いいよ!」
シモンは行方不明の兄のことを色々話し始めた。料理が得意なこと、剣を持ってること、髪の色とか癖とかとにかく知っていることをすべて話した。そしてエリックのことを語るシモンの瞳も実に輝いていた。
「でね、エリックはデクの樹サマとも仲良しでね、よくデクの樹サマの可笑しな話しとか話してくれるんだ」
「そうなの…お兄さんのこと、大好きなのね」
「うん!だってエリックかっこいいし強いしなんでもできるんだよ!」
シモンはふと背中の剣を見つめた。
「この剣もね、エリックのものなんだ。だからこの剣を届けたいんだ…」
「うんうん…なんで偉いおどうどなの…」
アルマは微妙な鼻声で頷いて(?)いた。要約すると「なんて偉い弟なの」だ。
「エリック…無事だといいけど…」
シモンがぽつりと呟く。女の子のような華奢な顔は寂しさと不安で押し潰されそうな表情に曇っていた。
「だ…大丈夫よ。きっと……」
曖昧なフォロー。アルマが小声で「なんでもっと気の利いたこと言えないのよこのバカ!」と言っていた。
「さ、さあもう寝ましょうよ。明日になれば開いてるわ」
「うん…」
シモンは気が抜けた返事をして草原に横になった。いていて。草がちくちく刺さる。それにひんやりしている。
「おやすみなさい」
アルマが耳元で囁く。シモンは頭の中で「お休み」というと溶けるように眠りについた。
雨が降っている。おまけに雷も天空の黒い雲のなかで唸っていた。時折光る稲妻が自分の体を白く照らした。
目の前には立派な城がある。石造りで真っ白な美しい城。金色の三角形の飾りみたいなものも見える。
……ん?これ…見たことある……?
そうだ。ここはハイラル城の前だ。
と、突然橋がかけられた。鎖がするすると降りてきて木製の分厚い橋が地面につく。
その奥からけたたましい音と共になにかが飛び出した。
白馬だった。白馬がすごい速度で横を駆け抜ける。しかも白馬には人が乗っていた。青っぽい…服?を着た白髪の女性と……女の子…?
女の子がこちらを見ている。顔がよく見えない。じっと見ていると白馬とそれに乗る女性二人はどこかに消えた。
すると後方から何かの気配を感じた。禍々しい何かの気配を。
振り向くと黒馬に乗った男がいた……というのが以前見た夢の内容。
「え…」
シモンは驚愕してその男を見た。その顔には見覚えがあった。
「エリック…!?」
黒馬に乗っていたのは優しくて、強くて大好きな見慣れた顔…エリックであった。エリックは白馬が走り去ったところを一点に見つめている。
「……」
エリックは無言でシモンを見た。いつもの優しさは吹き飛んでいた。まるで氷のような冷たいオーラ。
「あ、や、ぁ…」
言葉を詰まらせながら後ずさる。エリックが不気味に微笑み…
「……モン!シモン!!」
「はっ」
慌てるアルマの声で目が覚めた。気付けば朝露に煌めく草の上で起床していた。冷たい。
「大丈夫?だいぶうなされてたけど……」
「……」
シモンは答えなかった。動悸が激しくて喋る気になれない。そしてなにより気になったのが…
「エリック…」
黒馬にまたがっていた黒い影。あれはまさしくエリックそのものだった。あの氷のような目を思い出すだけで悪寒が走る。
ギギギ…
不意に何かが軋む音が響いて振り向いてみた。なんと橋が降りてきたのだ。
「!」
「……開いたわ…」
木の板がきしみなが降りてきた。ガゴンと対岸のくぼみにはまると砂埃が舞った。
「さあ、行きましょう」
シモンはごくりと生唾を飲んでハイラル城への一歩を踏み出した。