ゼルダの伝説 時のオカリナ ソウル・リベレイター

□第6章
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「もう!あのゴロン族なんなの!?」

アルマは憤慨してデッドの部屋を出た。さっきまであんな怯えていたのに、すごいかわりようだった。
歩きながらシモンは途方にくれた。30本だなんてそうそう見つからない。

「あんなこと言っちゃったけど…大丈夫かなあ…」

デッドは本当に行く意思を見せていない。だから松明30本だなんて無理難題を押し付けたのだ。こんな小さな子には出来ない、そう思ってるのだろう。
そう考えると俄然やる気が出てきた。

「こうなったら30本集めて這ってでもあいつを連れてくわよ。シモンいいわね!!」
「うん!!」
「さて…あいつが言ってた森ってのは…」

アルマは周りをぐるぐる回ってみた。そして近くのゴロンに聞くことにした。

「あの…ここから森ってどうやって行くんですか?」
「ゴロ?迷いの森のことゴロ?それなら2階に上がってすぐとなりに入り口があるゴロ」
「そうなんだ。ありがとう!!」
「でも何しに行くゴロ?」
「ちょっとデッドの頼みで…」

と言うとゴロンが笑った。

「デッド?あんなやつの頼みなんて聞く必要ないゴロ。ぼうやも大変ゴロねぇ」

それだけ言ってドスドスと去っていった。

「どうして仲間のことをひどく言えるのかしら…まあいいわ。早く森へ行きましょう」

シモンはデッドの部屋の隣の階段を上って2階に出た。2階なのに相当な高さがある。シモンが小さいからかもしれない。

「こっちかしら?」

アルマが隣に開いた穴に目をつけた。確かあのゴロンは2階を上がってすぐとなりと言っていた。
穴の前に来るとシモンはゆっくり瞼を閉じた。懐かしい匂いが漂ってくるのだ。

「懐かしい…森の匂い…雨の匂い…緑の匂い…間違いない」

すっと目を開けたシモンの瞳に暗闇が鮮明に映る。

「じゃあ…行きましょう」

ゆっくりと足を踏み出す。意味はないのに奇妙な緊張感がシモンの足を縛る。
光が見えてきた。森の匂いも強くなってくる。しばらく嗅いでない、心地いい香り…

「ん…」

「わ…」

光の先にあったのは…鬱蒼とした森だった。
辺りは木や草の緑で覆われている。これまた想像と大分違う森だった。あの山の隣にこんな森があったなんて。
そして何よりコキリの森に似ていた。

「すごいわ…まさかこんな森が……」

鈴虫が一斉に鳴く森をシモンは懐かしむように見渡した。コキリの森もこんな感じだった。光の線を引きながら飛ぶ虫が横を掠める。見慣れた景色が眼前に広がっていた。

「でも道が分かれてるわ」

道は3つあってどれも先が見えない。漆黒の闇がシモンの前に立ちはだかっていた。
あのゴロンは迷いの森と言っていた。きっと正解の道がひとつあってそれ以外の道に進むと迷ってしまうのだ。

「こんな森で迷ったら…最悪ね」
「……そういうこと言わないでよ………ん?」

シモンは何かの音に気づいた。よくわからないので耳を澄ましてみる。

「シモンどうしたの?」
「何か音が……いや…音楽…?」

それは森じゅうから聞こえてきた。かなり遠いが、軽快な音楽。不思議と心が休まる音楽だった。
シモンは音を頼りにゆっくりと左の道に進んだ。

「ここから音楽が聞こえてくる……」
「だ、大丈夫なの?」
「……多分」

警戒しつつ進んでいくとまた同じ景色が出てきた。さっきと同じ3つの分かれ道。

「これは…あってるの?」
「シッ!」

今度は右に進む。闇の奥から軽快な音楽が響いてくる。

「次は多分こっち…」
「待って!」

突然、アルマが後ろから声を張り上げた。いきなり叫ばれたから、心臓がバクバク言っていた。

「な、なに?」
「こんな広い森で分かれた道だらけなのよ。いつ迷ってもおかしくないわ。なにか目印になるもの置いてかない?」

アルマの意見はもっともだった。こんな枝分かれした道を進んでいてはいつか迷う。しかしなにか目印になるものがあっただろうか…

「あ」

シモンは腰にあった麻袋を広げてみた。中にはこれまで集めたデクのタネが詰まっていた。昔、エリックと集めたもので、色んな形があった。このタネ袋はエリックとの思い出だった。


『シモーン!これ見てみろよ!』
『なぁに?……わあ!!すごい星形!!いいなあ…』
『シモンにやるよ』
『え?いいの!?』
『だけど兄ちゃんはもっとすごいの見つけるからな〜』


「……」

エリックがくれた星形のタネ…机の引き出しにしまったままだ。懐かしいあの日々…

エリック…会いたいよ…


「シモン?」
「ハッ…あ、うん」

現実に戻されたシモンは慌ててタネを取り出した。

「これを撒きながら進もう」

シモンはタネを掴んでばっと地面に投げた。タネは弾みながら四方八方に散る。それを線のように繋げていく。聞こえてくる音楽を頼りにタネを撒いていくのだ。地道な作業だが仕方ない。
しかし三回道を通ったところでタネは尽きてしまった。

「あ、タネが……」
「あら…どうしま…って…」

急にアルマがこそっとシモンの後ろに隠れた。

「アルマ?」
「あそこに誰かいるわ…」

シモンが振り向くとそこに女の子がいた。
女の子は赤色の髪の毛を二つに纏めており、困った様子で右往左往していた。こういっては難だが幸うすそうな顔をしている。

「ふえ〜ん…ここどこぉ…?バンブルー……」

女の子は今にも泣きそうな声音でうろついている。というかすでに泣いていた。

「迷ったのかな?助けなきゃ」
「でもなんか怪しいわよ…」
「大丈夫だよ!ねえどうしたの?」

シモンが呼び掛けると女の子はん?とこちらを見た。

「?君だぁれ?」
「僕、シモン。ねえどうしたの?」

尋ねるとぐすんぐすんと泣きじゃくり始めた。

「私、道に迷っちゃったみたいで…ずっとここらへんをさまよってるの…出口は見つからないし…お腹すいたし…」

ひっくひっくと泣いている。シモンはおずおずと
「じゃあそこの道行ってみて?さっき僕が撒いたタネが目印になってるはずだからそれを頼りに行けば…」
と言うと少女の顔がパアッと明るくなった。まるで蕾が開花したような笑顔だ。思わず後ずさる。

「ほんとに!?よかった〜助かっちゃったぁ〜本当に餓死して野垂れ死ぬかと思った〜。私、プリコ!!じゃ、またね!!シモンくん♪」

少女はタネがある道をスキップしながら帰っていった。少女の鼻歌は徐々に遠ざかり、しばらくして消えた。それにしてもおかしな少女だった。

「なんか怖いわ…」
「う、うん……あれ?なにか落ちてる…」

シモンは足元に光る何かを拾い上げた。
それは綺麗な宝石だった。清んだ緑色の宝石が日に煌めいて輝いている。結構大きくて片手では持てない。そのあまりの美しさにシモンは目を奪われた。

「綺麗……」
「なにそれ?」
「さあ…さっきの人が落としてったのかな?」
「……ん?むむむ?」

アルマは唸りながらその宝石をじっと見つめた。すると
「これ…『コキリのヒスイ』じゃない!!」
「え?コキリの……ヒスイ?」

シモンが偶然拾ったのはコキリ族の宝石、コキリのヒスイだった。
デクの樹サマから聞いたことがある。これはコキリ族の秘宝。我々はこれを守らなければならない…と。

「あの女がこれを…!?やっぱり賊の類いだったのね!!助けるべきじゃなかったのよ!!」
「……」

シモンは無言のまま宝石を見つめていた。まさか伝説の宝石を拾ったなんて誰が予想できただろうか。

「これどうしよう…デクの樹サマに返さないと…」
「そうしたいけど…あなた森に帰れないんでしょ?しばらく持ってるしかないわね」

アルマが言うのでシモンはタネが無くなった袋にコキリのヒスイを突っ込んだ。
「さて、タネも尽きたし…どうしましょうか…」
「……音楽が大きくなってる…多分もうすぐつくよ」

森から聞こえる音楽に引き寄せられ、シモンは真っ直ぐ道を進んだ。
奥の闇に一欠片の光が覗いていた。
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