ゼルダの伝説 時のオカリナ ソウル・リベレイター
□第8章
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気がつけば、シモンは真っ暗闇の、どこか分からない空間にいた。
あ、れ?
ここは、どこ?
何も聞こえない。何も見えない。ただ暗闇に立っているということだけは分かった。
寒い。
とても…寒い。
カチッ
不意にそんな音が聞こえた。
カチッ
カチッ
カチッ
…なんの音?
カチッ
カチッ
カチッ
カチッ
…時計、のようだった。
その音が、どんどん大きくなっていく。
カチッカチッカチッカチッカチッ。
なに?なにが起こるの⁉︎夢なら覚めて!
その時だ。
「俺を忘れるな」
「ッ‼︎」
「……」
「……シモン!!」
「よかった〜起きたゴロ〜」
この声は…アルマ…と…デッド…。
うっすらと目を開けるとつぶらな瞳のやたら図体のデカイやつが顔を覗いていた。最初はビクッとなったがじょじょに記憶が甦ってきた。
そして今自分が横たわっているのに気づいた。よく見れば、身体中包帯でグルグル巻かれている。
「デッ……ド」
「あのあと気絶してたんだゴロ。このまま目覚めないんじゃないかって思ってたゴロ〜」
「こらデッド!物騒なこというんじゃない!」
アルマの怒号が飛ぶ。いつも通りで何より。
「ここは…?」
「ここはゴロンの町ゴロ。オイラたち、帰ってきたゴロよ」
「帰ってきた…」
見ればデッドの手に深紅の宝石が握られている。
そうだ。ドドンゴの洞窟に入ってキングドドンゴを倒したんだ。ゴロンのルビーはその時…
呆然としていたシモンの顔に笑顔が甦った。
「……ありがとう」
「そんな……お礼をいうのはこっちゴロ…」
そんなやりとりをしていると、扉の方からドスドスという足音が聞こえてくる。足音の数を聞く限りかなりの大人数だ。
すると突然、扉が勢いよく開いた。
「デッド!!怪我人がいるってホントゴロか!?」
「静かにしなさい!!怪我人が寝てるんだから!!」
「……」
扉には複数のゴロンがわらわらしていた。こうみると恐ろしい光景だ。
「シモンとドドンゴの洞窟に行ってきたゴロ。そんで…」
「そ、それは……!!」
デッドが手のひらの宝石を見せた。
ゴロンの群衆が目を丸くして波のように押し寄せてきた。
「ゴロンのルビーゴロ!!」
「ほ、本物ゴロか!?」
「すげえ…初めてみるゴロ…」
「ホントにデッドが取ってきたゴロ?」
「そ、それは……」
デッドが言葉につまる。頑張ったのはシモンだ。自分じゃない。
「それを取ってきたのはデッドだよ」
「シモン!?」
シモンが叫ぶと群衆の目が一斉シモンに向けられた。
「一緒に行ったから間違いないよ。デッドすごいんだよ。僕を助けるためにキングドドンゴに体当たりしたんだよ」
「キングドドンゴ!?」
「キングドドンゴがいたゴロか!?」
「そうゴロ…このルビー…どうやらキングドドンゴが飲み込んでたみたいで…」
「僕、デッドの足を引っ張っちゃて…もしデッドが助けてくれなかったら今頃…」
「シモン、なに言ってるゴロ!これを取れたのはお前がいたからゴロ‼︎」
「デッド…」
仲間の一人が呟いた。
「……」
またなにか言われる。そう思った。
しかし違った。そのゴロンは頭を下げてきたのだ。
「え、ぅえ?」
いきなりのことでなにがなんだか分からず、デッドは動揺してしまった。そんな、仲間の後頭部なんか見ても嬉しくない。
もちろん、そうじゃなかった。
「あ、あの…?」
「すまなかったゴロ!!お前のこと、ずっと悪く言って…こいつには無理だって思ってたゴロ…」
するとまた仲間の一人が言い出した。
「オイラも…悪く言ってたゴロ…ドドンゴの洞窟にすら行ったことないくせして…」
「本当はこんなに強かったゴロね」
「ごめんなさいゴロ…ゴロンの誇りに欠けてるのはオイラたちゴロ…」
「み、みんな…」
「デッド!!今まで悪く言ってすまなかったゴロ!!許してくれとは言わないゴロ…」
デッドは震えながら涙をこぼした。
「そんな……みんな…うおぉぉん、ぐおぉぉぉん」
「泣くなゴロ〜」
どっと笑いがその場を包んだ。温かい笑顔がデッドを取り囲んでいる。
「これがゴロン族…」
「よかった…」
そして賞賛の言葉はシモンにも向けられた。
「お前も子供なのにあのキングドドンゴ倒したゴロか⁉︎」
「すっげ〜コロ!かっこいいコロ‼︎」
「うちのダンナにも見習って欲しいねぇ」
「かーちゃんそれはないゴロ…」
「…ふふ、あははは」
思わずシモンも腹を抱えて大笑いした。こんなに笑ったの、いつぶりだろ。
「シモン!!」
デッドが近づいてくる。シモンは何故か身構えてしまった。
「これ、あげるゴロ」
差し出されたのはデッドの手の中で赤く煌めく宝石だった。
シモンは何のことだか分からず、ぼんやり立っていた。が、すぐにそれは破られた。
「えぇ!?ゴロンのルビーを!?でもこれ、大切な宝物なんじゃ…」
デッドは首を振った。
「今オイラの大切な物はシモンゴロ。これはその証ゴロ。オイラたち、キョーダイゴロ!!」
「兄…弟……」
シモンはゴロンのルビーを掴んだ。美しく輝く深紅の宝石。それはシモンとデッドの熱い友情の輝きだ。
「……うん!」
シモンは宝石を握り締めた。心なしか温かい気もする。
するとデッドがあ、と声を漏らした。
「そうだ、忘れるとこだったゴロ。エリックって男…」
「!」
そうだ思い出した。エリックを探してたんだ。そしてエリックがこの山にいると…
「最初にオイラが洞窟から出た時にその男が訪ねてきて…そしたら『大妖精』様に会いに行くって言ってたゴロ」
…大妖精?
「その大妖精ってのはどこにいるの?」
「この山の山頂に洞穴があるゴロ。そこに大妖精様がいるゴロ」
「……」
エリックは何をしているんだろう。大妖精にあって何をするつもりなんだ?こんなに会いたいのに。どんどんエリックが遠くなっていく。気がする。
「会えるといいゴロね」
「……うん」
デッドがパン、と手を合わせた。
「よーし、みんな!昔ダルニア兄貴がやったという伝統のやり方で、シモンをお見送りするゴロ!!」
その言葉を合図に、周りのゴロンが騒ぎだした。一体何が始まるんだ?
「キョーダイ!!」
「オイラたち、キョーダイゴロ!!」
「キョーダイキョーダイ!!」
ずんずんと群衆がシモンに迫ってくる。シモンは背中に寒気が走るのを覚えた。
ゴロンたちは止まらない。え、これ、逃げなきゃ。
「し、シモン逃げるわよ!」
「う、うわあぁぁぁぁ!!」
二人は踵を返してゴロンシティから逃げ出す。
シモンは笑いながら全力で逃げた。