ゼルダの伝説 時のオカリナ ソウル・リベレイター

□第10章
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白い寒気がシモンを微睡みから引っ張り出した。
冬ではないのに刺すような寒気が肌を貫く。うっすら目を開けると質素な茶色の天井が映った。辺りは壊れた器具が無造作に転がっている。
シモンは埃っぽくて咳き込みながら起き上がった。木の小屋の隙間から漏れてくる光の中に水が流れる音が聞こえる。驚くほど静かな朝だった。
眠い目を擦りながらドアを開ける。朝日が溢れてきてシモンを包んだ。
湖畔の水はあり得ないほどの冷気を帯びていた。目覚めたシモンに冷徹な微笑みをかけているようだった。水面に反射する光でさえ冷たく感じられる。

「あ…」

小屋を出てすぐ柱が連なる所にアレディはいた。座り込んでじっと、湖を見つめている。
シモンに気づいてアレディが振り向いた。

「お早う御座いますシモン殿。よく眠れましたか」
「あ…うん、おはよう」

アレディは微かに微笑んだだけですぐに向き直った。ずっと水面を見て、ピクリとも動かない。
シモンが何をしてるのと訪ねようとした時だった。

「ここは…我が母、ルト姫が愛した湖です」
「えっ」

そう言ったアレディの口調は少し悲しそうだった。

「私を産んで2年程で亡くなってしまいました。……しかしよくこの湖にいたのを覚えています」
「へー……」

シモンは朝日に照らされるアレディを見た。自分と同じ背丈なのにアレディはずっと大人びて見えた。

「私は…守りたいのです。母が愛したこの湖を。母が愛したゾーラの民を。私はその使命がある」
「……」
「貴方には母と呼べるものはいますか?」
「はは…?おかあ…さん…?」
「いないのですか?」

シモンは首を傾げた。お母さんってなんだろう。エリックがお母さんに当たるのかな。

「……分かんない。僕、気づいたらエリックと一緒にいて…エリックがお母さんみたいな…お父さんみたいな…」
「そう、ですか…」

「お話し中悪いんだけどォ」

耳元で女の子の声。アルマがひらひら羽ばたいていた。

「そろそろ行きましょう」
「……そうだね」

シモンは返事をしてくるりと向きを変えた。後ろからアレディが駆けてくる足音が聞こえる。

「アレディ」
「はい?」

シモンはアレディの顔を見ずに言った。

「君のおかあ…さんが好きだったこの湖を守ろう。一緒に」
「……」



「……はい!」

答えたアレディの声音は、僅かに濡れていた。










「さ、目的はゾーラ川ね。張り切っていきましょー」
「おー!」

広い平原に出たシモン達は遠くに見えるハイラル城…の隣にあるゾーラ川へ歩みを始めた。かなり遠いがシモン達は比較的和やかだった。

「……それで、その一人が割って入ったらコケちゃって」
「あはははは。シモン殿の仲間は面白いですね。実は私の仲間も…」
「ほんとに!?あはは!」

シモンとアレディが同時に笑みを零す。あどけない少年達の会話は、共に抱えていた不安をものの十分で消してしまった。アルマはその様子を静かに見守っていた。アルマはシモンはなるべくアレディに不安を感じさせないようにしてるのだと思った。仲間と離れる寂しさや不安は、シモンが一番知っている。
そして話はアレディの母に変わった。

「アレディのお母さんってどんな人?」
「私の母、ルト姫はやんごとなき方でした…」

アレディは目を瞑ってルトの姿を思い浮かべた。気高く美しく、それでいて聖母のように優しい母。自分を産んですぐ亡くなったが、それだけはちゃんと記憶となって刻まれていた。
母はよく、勇者のおとぎ話をしてくれた。





『昔、それは昔のことゾラ。ある勇者が妾(わらわ)の前に現れた。勇者はその光輝く剣を手にし、ゾーラに巣食う闇を切り裂いたゾラ。だから今の里はこんなにも美しいのゾラ』
『へぇ〜!かっこいい〜!お母様はその勇者に会ったの!?』
『うふふ…当然ゾラ。……全く、こんな美しい妾を放っておいてどこにいるのやら…』





「……そういえばフィアンセがどうとか言ってたような…」
「なにそれ?」

と、そんな他愛ない会話をしていると、水の流れる音が遠くで聞こえた。
真っ先に反応したのはアレディだった。

「この水の匂い…ハイリア湖畔の水と同じです」
「そうね。ハイラル城も近くなってきたわ」

ハッと見上げると朝靄の中でうっすらとしか見えなかったハイラル城が目の前に迫っていた。門前の三角形の紋章が鈍い光を放っている。

「えーカカリコ村の隣だから……あ!橋があったわ。……川もあるわ」
「その川を伝えば…」

アレディがぎゅっと手を握る。

「アレディ…」
「……行きましょう」

アレディははや歩きで川に向かった。

「ま、待ってよアレディ!!」

シモン達は急いでアレディを追いかけた。
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