what kisses are meant to be


□what kisses are meant to be
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8月の暖かい夜。KBS Cool FMからファーストキスが聞こえた。

夏も終わりに近づいた真夜中。子ども達はベッドに潜り込みながら、あるいは屋根の上に座りながら聴いている。音の波長から伝わる彼らの笑い声や、心躍るキスを心待ちにして。

神経は剥き出しで、手のひらは汗でベタついている。洗いざらしのジーンズがそのビジュアルを一層引き立てている。少し神経質過ぎているのかも知れない。でも、とても待ちきれなくてドキドキしている。ファーストキスにはそれら全てが詰まっている。

もちろんSuper JuniorはStation 89.1の顔、というわけではない。Super Juniorは決してイケてるわけではない。13人だったり、15人だったり、男としてピンときそうもない少年たち。でも自分たちの音楽を聴いてくれる人がいる限り、努力を積み重ね、己の価値を証明するために強情なまでに立ち上がり続ける。 
 
かつての彼らは不完全で、残り物の訓練生だった。誰ひとりとして彼らを信じず、その名を耳にしようものなら、一笑に付されて真っ先に「お気に入りリスト」から跡形もなく消し去られるはずの少年達だった。
 
でも、たった1つのキスがあればよかった。たったひとつの不完全で完全なキスと、リスナーさえいれば良かった。彼らはくだらない決まり事を打ち破り、リスナー達のこめかみ、頬、耳に触れ、音、感覚を畳みかけていった。あとはもう自分たちを信じて進み続け、決して振り返らなかった。 
 

* 
 

洗面所で自らの憔悴しきった顔を見つめていたヒョクチェは、鋭いノックの音で現実に戻った。苛ついた金切り声とともにドアが開くと、強張った顔のイトゥクがスッと入ってきた。些細なプレッシャーが彼の骨の髄まで滲みているようだ。

ふたりはしばらく会話することもなく鏡の前に立っていた。イトゥクは爪に付いた目には見えない汚れをこすり落とすフリをし、ヒョクチェは、たとえ目が乾いてもこの2時間だけはまばたきだってするものかと自分自身に言い聞かせている。

このふたりの青年は、つまずいたり転んだりしながらもお互いを助け合ってきた。特に歌唱力があるわけでもない。ダンスだってその片われだけが秀でているだけだ。それでも様々な歌を通して、迷いながらも胸を張って歩んできたのだ。

「ヒョン…」

イトゥクはお湯でふやけ始めた両手から目を上げた。暫くすれば、そのシワも元に戻るだろう。多少緊張が残るものの、努めてリラックスした顔を作り、イトゥクは答えた。

「うん。わかってる。」

これは単なるラジオ番組ではない。喉がかれるまで当てどもなく、やみくもにしゃべる場所でもない。周りから助けられながらも5年3ヶ月もの間、自らの力でゼロから築き上げてきた、彼らにとって誇り高い特別な場所なのだ。

静けさがふたりの背後に忍び寄り圧倒する。イトウクは手の水滴を振り落とすと水道の蛇口を閉めた。そして丸めた背中を真っ直ぐに伸ばし、胸に押し込められていた喉のつかえが、まるで肌を通して透けて見えたかのように咳払いをした。

「行こうか?」

ヒョクチェはまるで迷子のようだ。コートにすっぽり身を包み、金色に染めた前髪は伸びきってまとまりもなく、無遠慮に彼の両目に覆い被さっている。この状況を認めるものかと頑なに据えられたその目は、必死にイトゥクに訴えかけている。ヒョン、これは全てジョークで、いつもと同じだよね?息を震わせながら、ヒョクチェは口の端を頼りなげに上げた。
ジョークなんかじゃない。そしてドアに向かって歩き出した。あどけなさを残した青年は大人へのステップを踏み出した。

放送開始の赤いランプが点灯する直前、イトゥクは両足を放送席の下に滑り込ませた。

「精一杯やろう?初めての時みたいにさ。」



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