YGO短編2

□好きになったのは
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※バリアンで小ネタ



「なぁ、名前」

俺はこの家の主である名前の手伝いのため、彼女と肩を並べて晩飯を作っていた。因に、手伝いはローテーション制だ。
野菜を洗う手は止めずに、隣で俺が洗った野菜を短冊切りにしている名前に声をかける。 すると名前は一度包丁を止め、こちらを向き、「なぁに?アリト」と首を傾げた。 そういう行動も逐一可愛い。 じゃなくて! 俺はずれた思考を一気に引き戻し、言葉を続ける。

「なんでミザエル、あんな不機嫌オーラ出してんだよ」

俺も水道の水を止め、リビングのソファの上に膝を抱えたまま座り、つけっぱなしのテレビを朦朧と見ているミザエルを、濡れたままの指で差す。 名前は俺の疑問に、「ああ、あれは…」と。どうやら答えてくれるらしい。

「今日の弁当、ポテサラ入ってなかったから……」

俺は思わず「新喜劇」みたいにずっこけそうになった。 なんて間抜けな理由なんだ…!!
そりゃ、あいつがポテサラ大好きで信者なのは知ってるけど、たった一日弁当に入ってなかっただけでこれとか。バリアン七皇が聞いて呆れるぜ。まぁ、今はあんま関係ないんだけどな。

「まじか…」

俺が無意識に口に出していると、名前は淡々と「まじです」返してくれる。独り言を聞かれるのは、どんな内容だろうが恥ずかしい。

「そう言えば」

俺はまた水を流し、手を動かす。名前は俺が話し掛けちまったから、まだ先に進めないっぽい。悪いとは思うが、聞いておきたいことが一つある。

「なんであいつあんなにポテサラが好きなんだよ」
「そりゃあ、この世界で一番最初に食べたものだからでしょ?」

案外あっさり答えが返ってきて驚く。 こいつ、そんなにミザエルのこと分かってんのかと思うと、心の奥底に醜いグチャグチャした気持ちが渦巻く。この気持ちは、好きじゃない。

「みんなより一週間早くミザエルは来たでしょ? その時色々あったんだけど……お腹空いてたみたいで、作り置きしていたポテサラをあげたの」

ミザエルは、ポテサラが生まれて初めて食べた食べ物なんだって。 名前の言葉に納得する。確かに、ミザエルは人間を下等生物だって言ってたから、人間の食べ物を口にしていなかった。人間の姿になること自体嫌ってたからな。
でも、違うな。俺は違うって納得した。

結局、だ。

ミザエルが好きになったのはポテサラじゃなくて、それを分け与えてくれた名前なんだろう。

俺は気付いて、溜め息を吐く。
きっとミザエルは、自分が名前を好きだって気付いちゃいない。 名前はポテサラの真実を知らない。



俺に言われんのは癪かもしれねぇけど、 鈍感すぎて呆れるぜ。





……………………………………


ポテサラ信者ミザエルの話





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