※前世・捏造?
「罰当たり」
暗闇の中で、神に祈りを捧げ続ける少女を見つけた。
この暗所が、御蔵と呼ばれる、神聖な場所だと言うことを、私はこの次の日に知ることになる。 今は、ここがどういう場所で、なぜ彼女が祈り続けるのかが分からなくて、私はこの場所に足踏みをした。 足踏みをした瞬間、少女はぽつりと呟く。
「罰当たり…?」
なぜだ? 少女に聞くと、少女は冷淡な顔をこちらに向け、伏し目がちなソレで私を睨み付けた。 全身に悪寒が走るほど、感情の無い表情だ。
「……私は神の供物」
「供、物……だと?」
そんな者が存在するとは知らなかった。ここにずっと住んでいても、まだ知らないことがあるなんて…。私は自らの頭を抱え、考え込むが、もしかすると一部の者しか知らないことかもしれないと割り切り、思考を止める。
「神の供物とは、どういうことだ?」
「贄」
ごくり と、私は思わず生唾を飲み込んだ。
「贄」彼女はそう言った。 淡々と抑揚も無しに。
「贄」それはつまり、人柱であって、命を捧げるということであって…。この少女が、死ぬということであって。
「君が望んだのか…?」
口をついたのは根拠の無い言葉で、彼女はそんな私を嘲り笑った。
「自分から? 冗談じゃない……ッ!」
その言葉に、少女に対する安心と、彼女を「贄」に選んだ周囲に対する絶望を感じた。
「なぜ、拒否しなかった!?」
「出来るわけないじゃない! 神に逆らったら、みんなに殺されるわ!どのみち、死ぬしかないのよッ!」
なぜ、まだ世界の広さも知らないであろう少女が、死ななくてはならないのであろう。 なぜ、私より遥かに幼いであろう少女が、理不尽に命を落とさなくてはならないのであろう。
矛盾だ。
神を信じるなら、神を信じている自分の身を捧げればいいだろうに。なぜ彼女を選んだ。
結局、自分が大切か。 自分さえ生きていればそれでいいのか。
私に、彼女を助ける術は無かった。助けようとしたが、彼女は頑なに拒んだ。 私は、その拒絶が私のためであることを知っていた。
人間は、とても醜い。
綺麗な人間は、卑しくて醜い人間に淘汰されていく。 真っ直ぐこそが異常とされ、排除されていく。
世界は、狂っている。
全身に矢を浴びながら、そんな数日前の出来事を思い出した。
少女は、神に捧げられるため、生きたまま焼べられたらしい。そう、噂を聞いた。
彼女は、あくまでも神のために死んだ。民のために死んだ。
しかし私はどうだろうか。
この身体に刺さる矢に、なんの意味があるというのだ。誰のためになるというのだ。
私にとっては、彼女の死の方が断然綺麗で、理不尽では無かったと思う。
ああ、なぜ私は死ななければならない。
少女よ。君が死ぬ寸前に言ったであろう言葉を、私も言おう。
「狂っている」
……………………………………
理不尽な死の話