※前世・捏造?
※ベクター姉主
我が国の現・王である私の弟は、冷酷非道な者だ。
誰にも負けないほど暴君で、唯我独尊。何よりも自分優先で、逆らうものは即、処刑。
そんな王の統制の下で、この国は不安定で歪な歯車を回しながら繁栄していた。と、言っても、繁栄しているのは城中だけなのだが。民は、一番幸せでなければならない国民は、この国では、一番に蔑ろにされている。
私の弟は、支配することが、侵略することが大好きな馬鹿者で、特に問題のない国を狙っては、一方的に潰している。私はそんな彼に強く反対をし、実の弟の手で、牢獄に放り込まれた。
何日間もこの暗闇で過ごすが、どうやら彼は私を殺す気はないらしい。その証拠に、弟は度々ここに訪れては、私に屈服を迫ってくる。生かしておく代わりに、俺に従えということであろう。
ああ、もし私が男子として生まれてたのなら、この国をこんな殺伐とした軍事国家にはしなかっただろうに。遺伝子を心底憎む。
「よぉ、姉貴」
「……今日も来たわね、愚弟」
「フハハッ!愚弟、ねぇ?……愚かな我に閉じ込められてるお前は随分な愚姉じゃねェか」
あながち間違ってない。結局、私は未だに弟を信じているんだ。まだ、希望があると。信じていたいんだ。そんな愚かなことがあるか。
「で?今日は何の用? まさか、ここから出してくれるわけじゃないんでしょう?」
「ギャハハハ!まさか!我が無条件で出してやるわけねェだろ!一応、お前は国の"ハンギャクシャ"さんなんだからよォ!」
反逆者。それもそうか。国王に逆らったのだ。妥当な二つ名じゃない。
弟は、品性の欠片も感じさせない高笑いを上げると、いきなり真剣な顔付きになり、中と外とを隔てる鉄格子をガシャリ と握った。
私が驚いて彼の顔を伺うと、幼い頃、飼っていたウサギが死んでしまったときと同じ表情をしていた。
「っ…!? あ、あんた……」
「なぁ……我に従えよ……」
「…………」
彼の言葉に首を振る。それは、出来ない。
「………んでだよ……姉貴……」
「………」
「従え、よ………」
じゃねェと、我は……。彼の表情に変化が見られ、私は思わず顔を背ける。 泣いている。姉弟だからか、すぐに分かった。
「頼む……たった二人の家族だろ……っ!!」
「たった二人の家族だからでしょ。家族が道を誤ってるのを、見過ごせるわけないじゃない」
「……道を誤るって………じゃあ、我は、どうすればよかったんだ!?誰も信じれない!我は誰も!………姉貴しか…信じれねェよ………」
「なら、私を信じなさいよ!」
「信じてる」
「信じてない!」
私は思わず立ち上がって、バカなことばかりを言い続ける愚弟に歩み寄る。彼は信じてない。絶対私を信じてない。
「私はね!あんたのことを思って………!」
「バカな姉貴」
「え?」
俯いていた彼が顔を上げる。その顔は、道化のように歪んでいた。
「あんた……どう、したのよ」
「ハハハ!我がお前を信じるわきゃねェだろォが!ブハッ!」
耳障りな笑い声に身震いがした。だって、こいつ…………
「あんた、何泣いてんの?」
顔だけ道化のように歪めながら、大量の涙を流している。
分からない。なぜそんな顔をする?
「なぁんで泣いてるかってぇ…?」
また一度笑いながら滴を落とし、弟は歪んだ口を開いた。
「お前が愚か過ぎて泣いてんだよォ!!!」
私にはそれが、「我を助けて欲しい」と嘆いているようにしか聞こえなかった。
「愚弟」
……………………………………
なんか唐突に書きたくなりました