褐色の肌を持つ彼は、まるでヒーローみたいだった。
アレはある夏の日。 校庭のベンチで読書をしていた私に飛んできたボールを、彼が止めてくれた。 呆然としていた私の頭上を飛び越えて、彼は助けてくれたんだ。
まるで、ヒーローだった。
颯爽と現れて、助けてはすぐに消える。……すごく、カッコいい。
私はその時からアリトくんに、憧れにも似た恋をした。
はじめは助けてくれたお礼からはじまった友人関係。アリトくんはとても気さくで、よく私に声をかけてくれた。その時もすごく紳士的で、優しく、やっぱり私の大好きなアリトくんだった。
……さっきから文末が過去形ばかりだと疑問に思いはしなかっただろうか? ………まぁ事実、過去のことなのだが。
正直に言うと、アリトくんはカッコいいだけじゃなかった。
一週間前に、私は彼に告白をし、彼はそれを受け入れてくれた。……そうして、晴れて付き合うことになったのだが………。
「アリトくん……引っ付きすぎじゃない……?」
アリトくんは、ものすごい甘えただった。
「そうか……?…だってよー、ここ数日遊馬とデュエルしっぱなしで名前分足んねェんだもん」
「……名前分って何…?」
私が聞けば、アリトは顔を持ち上げ、上目使いで見てくる。思わず唾を飲み込んでしまう。ごくり と嫌な音がした。
「名前分は名前分。俺の主なエネルギーで、足んなくなると死ぬ」
「死ぬの!?」
アリトくんって意外と繊細なんだね! なんて、少し失礼なことを思いながら、私は彼を抱き締める。 「名前分」なんてよく分からないけど、どうやら私がそのエネルギーの発生源らしいから、とりあえずだ。
「名前……」
「補給できてる…?」
「んー……も、ちっと」
脱力した声に焦りながらも、私はアリトくんを抱き締め続ける。 アリトくんの身体はじんわり熱を帯びていて暖かい。
「ど、どうかな……?」
「んー」
問うと、アリトくんが腕の中で身をよじったから、私は彼を放す。
「やっぱ、大好きだわ」
放した彼は、ふにゃり と微笑んで、私にキスをしてきた。
それは、息が詰まるほどの口付け。
元は、カッコいいアリトくんが大好きだったんだけど、巡りめぐって、甘えたなアリトくんも………
「大好き」
なんだよね。
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椿姫さんからネタを頂きました!
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