YGO短編2

□キミのいない世界なんて
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いつか別れが来るなんて、知っていた。
だってミザエルはバリアンで、この世界を滅ぼそうとしてるんだから。

共存は、出来ないんだって。 ………もしくは、共存の道を探したくないのかもしれない。共存の道を見つけてしまえば、それはつまりバリアンの存在意義を否定することになるからだ。 私は目的も意志も持たないミザエルなんて、嫌だ。

私は人間で、バリアンにとっては敵であるはずなのに、バリアンを助けたくて仕方ない。 だって彼らも、自分の世界と居場所を守りたくて必死なだけで、私たち人間と、然して変わらないじゃないか。


「………もう終わりだ」


ミザエルの声が鼓膜を揺らす。ああ、なんて残酷な響き。

終わり…。終わりか…。 もう、最後か。

ミザエルは人間界を偵察しに来ただけだと言う。その間で私はミザエルと出会い、恋に落ちてしまった。 だから、ミザエルはバリアン世界に帰らなければならない。


「名前、私は下等な人間が嫌いだ」
「知ってる」


何回も何回も君の口から聞いたよ。人間の姿をする君から聞いたよ。 そういえば、バリアンの姿である時は口が無かったね。そんな君も好きだと思う私は、相当感覚がおかしいのかもね。 でも、ミザエルだから好きだと思えるんだ。


「だから、私は貴様が嫌いだ」
「……」


嫌い、か。 だったら、そんな苦しそうに言わないでよ。そんな辛そうに言わないでよ。
嫌いなんでしょ? なんでそんなに愛をこめて言うの? なんでそんなに好きをこめて言うの?
嫌いなら…もっと突き放してよ。 いっそ、私がミザエルを嫌いになるほど。私、ミザエルに何をされても、殺されても、嫌いにならない自信があるけれど。


「そっ、か」


そんなことは口が裂けても言えない。 私はミザエルを引き留めてしまいたいけれど、でもそれはミザエルを苦しめてしまうから。 今でも充分辛そうな君を、もっともっと締め付けてしまうであろうから。


「嫌い……か」


何度もその言葉を噛み締めて、咀嚼し、飲み込む。 ああ、なんて暖かい。


「嫌いかァ……」


どこか、何か吹っ切れて、ああ、笑顔になれる。 そう思って笑ってみたら涙が零れた。 なんだ、ダメじゃん。全然、ダメじゃん。吹っ切れない。吹っ切れないよ。


「私も、ミザエルが」


言ってしまおうと思った。「嫌いだ」って。
つまりそれはミザエルを送る言葉で、君の背中を押すためのソレで。 でもなんでだろう。 送り出さなきゃいけないのに。なのに、言いたくないって思ってる私がいる。 ズルくて、我が儘な私がいる。


「……言わなくていい」


もう一度言おうと口を開いたら、緩やかな口付けをされた。ああ、甘い。

ミザエル、人間と同じ温もりがある。 好きだよ。やっぱり好きだよ。大好きだよ。

後を引くように離れた唇に、私はまた涙を流してしまった。

なんで好きになったんだろう。 好きにならなければよかったじゃないか。
でも、ほら。 こんなにどうしようもないくらい好きになったんだから、結局、好きになってたと思うんだ。

辛い、辛いね。

「初恋は実らない」 実ったよ。実ったけど、すぐに枯れたよ。

ミザエルの身体が徐々に崩壊していく。 この消え方、私は嫌い。本当に無くなってしまうようで、不安になるから。


「名前……嫌いだ」
「私も、大好き」


「そうか」 ミザエルはとても脆い笑顔をして、虚空に溶けていった。

心に、ポッかりと穴が空いたよう。


ああ、君のいない世界なんて−−−。






……………………………………

バリアンで「お別れ」シリーズ ミザエル編


同じような内容で申し訳ない



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