ねぇ、これは何度目のキス?
ねぇ、これは何の意味のキス?
君の暖かい唇から感じる愛しさを、私はどうすればよかったのだろう。
もっとすがり付いて泣いてしまいたい。 私も連れていって欲しいと叫びたい。
だって、私はアリトが好きだから。大好きだから。
でも、好きだから、大好きだから言えないことがあるんだ。 少なくとも私はそう思っている。
「アリト……」
離れた唇が弧を描いた。 だけど、目線を上げれば、アリトはその透き通った緑眼から涙を流していた。
思わず言葉を失う。
「悪ぃ……情けねぇ……」
褐色の頬をグチャグチャに濡らしながらアリトは弱々しく笑った。
ダメだ。そんな顔しないで。私まで泣いちゃうよ。
「泣くなって」
「アリト…こそ」
おかしいね。二人して泣きあって。大好きで仕方ないのに、もう大丈夫だって思っていたハズなのに。
「アリト、アリト。ワガママ、言いたい。ワガママ、言っていい?」
「いつもワガママなんて言わねぇんだから、今日ぐらい言ってくれよ」
アリトの暖かな声音が、枷を外した。
やっぱ無理だよ。 君を縛り付けてしまってもいい。君なら、振り払ってくれるだろうから。
だから、ワガママ言うね?
ごめんね。君に言うはじめてのワガママがこれで、今でごめんね。
「アリトが好き。何より好き!大好き、大好き!大好きっ!! アリト、私を連れていって!一緒に!どこまでもっ!」
私はアリトがいてくれればいいの。 お母さんにもお父さんにも悪いけど、でも、でも、本当に大好きなんだ。 アリトが大好きなんだ。
「うん…。 めちゃくちゃ嬉しい」
ああ、その言葉で大体分かったよ。 アリトは優しいね。
「嬉しい、けど。無理なんだ」
その返事が来るって分かってた。アリトは残酷で、それでいてやっぱり優しい。
「バリアン世界は名前には危険すぎる」
低く唸るように言うアリトに、全てが報われた気がした。
本当。好きになったのがアリトでよかったよ。
残酷で優しい君が好き。
遠く離れるね。 もう会えないのかな。 でも信じてるよ。またいつか、私と出逢ってくれるって、信じてるよ。
「うん……… ありがとう」
「じゃ」
「じゃ」
その片手を上げる挨拶は、私とアリトが帰る時にやっていた……つまり、別れる時にやるものだ。 また逢おう という意味を込めて。
確証なんて無い。 でも、信じて好きでいれば、また逢える気がする。
アリトの指先が崩壊しはじめた。
残酷な終わりだ。見送るなんて、そんなものじゃないよ。
光の粒になって消える身体。私は知らない内に手を伸ばしていた。でも、その手は空を切る。
粒すらも無くなって、何も掴めない。何も残らない。
さよならって、何も残らないんだね。
せめて、もう一度。今一度貴方に逢いたい。
これがきっと、最後のワガママ。
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バリアンで「お別れ」シリーズ
アリト編
(信じて待つって決めたのに。なのに。戻ってきた君は−−−)