YGO短編2

□欠けた牙できみを噛む
1ページ/1ページ




「今の凌牙くんは、ちっとも怖くないよ」


いつも俺に怯えていた女が、やけにはっきりと口にした。
その声音にイラついて、俺は名前を凄む。 いつもなら喉を鳴らしながら謝る女が、今日はやけに強情だった。 謝るどころか、眉一つ動かしやしない。


「もう、強がりは止めてよ」


何もかもを見透かしたような物言いに腹が立ち、俺は名前を組み敷いて、首に手をかけてやった。 それでも、こいつは俺を淡々と見据えてくる。 まるで心の奥深くまで見通しているかのように。 喉を鳴らしたのは、俺の方だった。


「なんだ、お前。本当に名前なのかよ」
「ほら、そうやって聞いてくるところとか、前の凌牙くんと圧倒的に違う」


まるで冷めた瞳は、光彩を放つこともせず、ただ俺を納める。

見えるのは、絶望の色。


「ダメだよ、凌牙くん。今の場所で甘んじていたら。いつか、この場所が苦しくなるよ」


何を分かったように。 そう思うが、指先は動いてくれない。
「殺すなら、殺して」彼女は言う。昔の面影などない。一切、欠片も見えない。

未来を知っているかのように、名前は紡ぐ。薄く唇を開き、不快な声音で奏でていく。 まるで、不協和音。たった一人で、不協和音を奏でやがった。

不快だ。気持ち悪い。

俺はそう吐き捨て、震える自分の拳を睨み付ける。 それでも、震えは止まってくれなかった。


「凌牙くん。何も、今の貴方を全否定してる訳じゃない。仲間と共に進むのは、とても良いし、貴方のためになる」


今まで、冷徹そのものだった声が、いきなり優しさに変わる。余りにも変化が激しかったため、俺は名前の人格を疑った。 こいつは多重人格かなんかだろうか。下らない。そんなもの、あってたまるか。小さく芽吹いた感情すら、打ち払う。俺には必要ないからだ。


「でもね。油断は禁物よ。いつか、足元を掬われる」
「…!?」


気付くと、名前は俺の背後に立っていた。さっきまで名前の腹部に跨がっていた俺は、今は床に座っている。
いつの間に。そんな質問は無粋だろう。


「私の忠告。覚えておかないとダメよ」


俺が身を翻した時には、名前の姿は消えていた。






……………………………………


主はバリアンという設定。七皇との直接的面接はなし。ドルベすら存在を知らない。人間世界を気に入っており、自分の前世も知っているため、人類の味方。 凌牙の闇落ちを防ごうとしている。


………ここまで補足しないと分からないって……。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ