おお振り小説(女性向け)

□焦がれるA(泉×三橋
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人気の無くなった部室。
いつもよりゆっくりと着替える。
他の部員が一人また一人と減る度に、鼓動が無駄に高鳴るのが分かった。

これは期待か・・・・それとも不安か。













「・・・・三橋。」


普段通り言ったはずなのに、少し声が震えていたかもしれない。
緩く握った掌に汗が滲む。

この時三橋の顔は見えない。
背を向けたまま着替えていたその手が、俺の声で一瞬止まる。
その首がぎこちなく左右に揺れ、それでもはっきりと振り返ることはしない。
こちらを気にしているのが分かる。
『困っている』、というよりは何かを『迷っている』雰囲気が感じられた。
その背中が「どうしたらいいのか分からない」と物語っている様。


しばらくしても三橋が動いてくれる様子が無くて、俺のほうから三橋の背中に近付く。
声を掛けた状態―アンダーシャツを脱いだ状態から一向に着替えが進んでいないため、野球部なのにやたら白い肌が見える。






オレンジ色の夕暮れの中。

そのまだ明らかに筋肉の足りていないような薄い背中に、無性に手を伸ばしてみたくなった。


でも駄目だ。まだ。




ここからは俺が無断で立ち入ってはいけない。
少なくとも無断では。

もし無断で立ち入ったなら、それは確実に何かを壊すだろう。

その何かが『どちらの』なのか、『どちらともの』なのかは分からないけれど。








そう思うから、本能的にそう感じるから、三橋が背を向けている状態では俺は何もしない。出来ない。

そう、心も体も。














無音の張り詰めた空気の中、俺も三橋も動かない。











(・・・・三橋・・・・。こっちを・・・・向いて・・・・?)

俺は心の中で念じるように呟く。











「・・・・ぅ・・・・う、ん・・・・。」



想いが通じたのか、三橋が、擦れたほとんど聴こえないようなか細い返事をして、恐る恐るといった様子でこちらを振り向く。

その視線がちゃんと俺に向けられているのを感じて、一気に全身から力が抜ける。

・・・・駄目だ駄目だ。
自身にもう一度緊張感を持たせる。
ここからが本番なんだから。











スッ、っと一歩踏み出して今まであった三橋との『距離』を無くす。
目の前には三橋が何とも言えない複雑な表情をして俺を上目遣いに見ていた。
三橋の横に腕を伸ばすと、その体が反射的に強張るのが見て取れた。


「―――・・・・」


それでも俺はそのまま腕を伸ばすことをやめない。
ここで引くことは、出来ない。



両腕をゆっくりと背中に回し終えて、腕の中に三橋の体を閉じ込める。
緩やかな動作の中、少しずつ、三橋と俺の体が触れていく。


手が触れ、腕が、肩が、頬が触れる。


その一つ一つから、確かな熱を感じる。







紛れも無い、俺と、三橋の熱。








「―――はぁ・・・・。」


そこで俺は漸く本当の意味で力を抜くことが出来た。
心の枷を。

俺の体も三橋と同じように強張っていたのだということに気付く。

それが三橋にも伝わったのか、三橋の体からも力が抜けていき、その腕が自然と俺の背中に回されてくる。










何度目かの秘め事。

誰もいない部室で、ただ抱きしめあう。
ただそれだけ。











これは俺の我が侭。

君が拒絶しないから、ただそれに縋っているだけ。











・・・・三橋は、その一時の『戯れ』の最中も、終わった後も、何も言わない。
・・・・いや、俺がその空気に耐え切れなくなって、「帰ろう。」と言った時に、「・・・・うん。」と答えるだけ。
目が、合わせられない。







次の日になれば、何も無かったかのように振舞うことが出来るけれど。




どうして三橋は逃げない?

どうして三橋は俺を受け入れる?


























なぁ・・・・三橋・・・・?

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