おお振り小説(一般向け)

□三橋とレン・発現@ 
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「・・・・こんな問題もできないのか!まったく、お前のために授業のレベルを下げるわけにはいかないんだよ!!立て!!・・・・大体お前は・・・・」


「立て」という叱責に弾かれるように起立したのは、自分も良く知るクラスメイトであり部活の戦友。
その様子はいつも以上に緊張しているのか、妙に堅い。






(・・・・あーあ・・・・また始まった・・・・)




泉孝介は数学教師の怒鳴り声に、窓の外で降り続く雨を見ながらため息をついた。

















〜〜〜発現―1〜〜〜side・IZUMI・
















(・・・・また泣くかな・・・・)

机の上に頬杖をつくと、肘が丁度教科書の段差に当たり少し痛い。
それに構わず、視線をナナメ前の三橋の背中に移す。
案の定、そのいつも以上に小さく見える背中は小刻みに震え出していた。
きっとその目には今にも零れそうなほどの涙が溜まっているに違いない。








この数学教師・・・・草野は「それなりに」良い教師だと、泉は思っている。
厳しいことで有名ではあるが、教え方自体は下手ではないし、その厳しさも本気で生徒のためを考えているからこそなのだろう。
「それなりに」というのは、泉自身も何度か草野に絞られた苦い思い出があるからであり、第一『厳しい教師が好き』だなんていう生徒も珍しいんじゃないだろうか。



(しかしよくもまぁ、あそこまで・・・・)



口からはまたため息が零れる。
実際草野が怒るのは毎度のことなのである。
どのクラスにも所謂『デキる』やつと『デキない』やつがいるのは当然のことで、その差も決して小さくはない。
そんなことは教師側としても判りきっていることなのだろうが、何かあったときにどうしてもデキないやつにこういう矛先が行くのは仕方がないわけで。
今更ながら三橋は勉強が壊滅的に苦手なため、特にデキるデキないの差が顕著となる数学と英語ではよく標的とされるのである。



「いつもいつもお前のせいで授業が止まるんだ!クラスメイトの迷惑になるとは思わな・・・・おい!田島!!お前もだ!聞いてるのか!!」


泉と同じように外を見ていた田島にその矛先が向く。
当然田島も草野のブラックリストには一番に載っている。


「だってぇ〜つまんないんだもん!第一せんせーがいつも説教するから授業がトドコオルんじゃないんすかぁ〜?」


頭の後ろで腕を組んだ田島が唇を尖らせ、子供のように反論する。
お前はいつも寝てるだろうが・・・・。
そう思ったが、もちろん口には出さない。
田島はなんだかんだ三橋の被害を少しでも減らそうとして自分から怒られているのだろう。




(・・・・いや、考えすぎか・・・・)


馬鹿は馬鹿だし、と少し失礼なことを考える。
田島のおかげで多少雰囲気は和らいだが、すぐに草野は三橋へと向き直った。


「三橋!お前は何で何も言わないんだ?判らないなら判らないでもっとはっきり言えばいいんだ!!」

「・・・・うう・・・」


どうも三橋のうじうじした態度は人をますます怒らせるようで。
田島のように反論したりすれば草野も一度怒鳴るくらいで終わるのだろうに。


「全く・・・・どうしようもないやつだな。・・・・そんなにやる気がないなら今すぐ教室から出て行きなさい!!」

「・・・・ひ、ぁ・・・う・・・・」


すでに三橋の涙腺は決壊していたようで、机上のノートにポタポタと小さな染みを作っている。
それにしても、さすがにちょっと言いすぎじゃないだろうか。助け舟を出すか。


「ちょっと、先せ・・・・うわっ!!?」


何かフォローをしようと泉が口を開いたその時、閃光とともに何かが爆発したかのようなドーンという爆音が鳴り響いた。


「・・・・う、うわああああああああああああ!?」


三橋のと思われる叫び声とともにクラス中から悲鳴がこだました。


「か、雷!?」

「すぐそばに落ちたぞ!」


草野に発言しようとした体制から、ハッ、と我に返って窓の外を見ると、どうやらすぐ傍にある木に落ちたらしい。
木が燃えてるようにも見えないし、危険はなさそうなので、改めて落ち着こうと教室を見回す。
田島は雨が降ってるというのに、窓を全開にして今にも落ちそうなくらい体を投げ出して騒いでいる。。
浜田は一応興味はあるのか遠巻きに外を覗き込んでいる。

そして―


「・・・・?」


違和感があった。
ほとんどの生徒が窓際に走りよって外を覗き込んでいるのにも関らず、自分の席で立ち尽くしているやつがいたのだ。
・・・・三橋だった。
その様子がどうもおかしい。
ぼーっとしているのかのように、その場で立ち尽くしたままで、その視線はぼんやりと前を向いている。
普通ならば、好奇心から外に興味が向かうなり、恐怖心からその場で震えるなりするものだ。
どうやら草野もそんな三橋に気付いたようだ。


「驚いたな。避雷針があるはずだが、役に立たなかったのか・・・・?・・・・三橋、どうした?大丈夫か?」


草野が正面から三橋の顔面を覗き込むが、どうにもその焦点が合わない。
三橋はまるで目の前の草野のことなど眼中にないかのように・・・・いや、実際その瞳は何も映していないように見えた。


「・・・・三橋・・・・?」


訝しんだ草野が三橋の肩に手を掛ける。
・・・・正確には掛けようとした。
しかし、それは叶わなかった。






パンッ





「・・・・草野。俺に触わるな。」


驚いた。
三橋が草野の手を振り払ったのだ。
いや、それよりも・・・・


(なんだ・・・・あの声・・・!?)


その声はいつもよりも数段低く、さらに三橋は先ほどまでは全く違う鋭い目で草野を睨みつけていた。


「な・・・・!?」


普段の三橋からは想像も出来ない行動に草野はその刹那、狼狽したように見えたが、教師としてのプライドがそれを許さなかったらしい。


「な、なんだその態度は!?ええい!文句があるなら出て行きなさい!!」


真っ赤な顔をした草野が扉を指差すと、三橋はニヤリと笑った。


「わかりました。出て行きます。」

「・・・・は?」


嘲笑するような笑みを浮かべたまま歩き出した三橋に気圧されたのか、草野が一歩下がった。
その間にもう三橋は廊下に出て行ってしまっていた。
その足取りは軽く、いつもの危なっかしい姿は全く感じられないほどだった。










(一体どうなっているんだ・・・・?)


今度は泉が立ち尽くす番だった。

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