おお振り小説(一般向け)

□三橋とレン・発現A
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「・・・・・・・・で・・・・が・・・・こうなるわけで・・・・つまり・・・・」

うっすらと聞こえてくる数学教師の声。
うっすらとしか聞こえていないのは、その意識が他の所へ向かっているから。

窓を叩く雨。
その向こうに広がる暗鬱とした雲の帯。

雨は嫌いだ。野球が出来ない。
放課後の楽しみがなくなるわけだ。
普段は放課後を楽しみにして、苦手な授業中はほとんど睡眠に充ててるけれど。
この分だと、今日は筋トレだけになりそうだ。
つまり、放課後まで体力を温存しておく必要もない。

窓を伝う水滴の跡を無意識に目で追う。


(にしても良く降るよなあ・・・・)


今日、田島悠一郎は珍しく起きていた。
















〜〜〜発現―2〜〜〜side・TAZIMA・

















「・・・・つも・・・・で・・・・・・・・だ!・・・・迷惑・・・・おい!田島!!お前もだ!聞いてるのか!!」

「へ!?」


ぼーっとしている所に突然自分の名前が聞こえたため、アホみたいな返事をしてしまった。
周囲を見渡してみると、いつのまにやら三橋が起立させられている。
どうも三橋が怒られているらしい。
俯いているためよく顔は見えないが、泣きそうだということは感じ取れた。


(草野は煩いんだよなぁ・・・・)


今まで幾度となく呼び出しをくらっている田島だから、十分草野のことはわかっているつもりだ。
こういうときは・・・・。


「だってぇ〜つまんないんだもん!第一せんせーがいつも説教するから授業がトドコオルんじゃないんすかぁ〜?」


少しおどけた感じで言えば、呆れたのか草野は三橋に標的を移した。


(ありゃ?失敗したか?三橋わりい!)

あわよくば三橋もろともこの場から逃れられるかと思ったのだが、そううまくはいかないようだ。
形だけ手を合わせて、一応心の中で三橋に謝っておく。


「三橋!お前は何で何も言わないんだ?判らないなら判らないでもっとはっきり言えばいいんだ!!」

「・・・・うう・・・」


(・・・・三橋は言わないんじゃなくて言えないだけなのに。そこんとこ判んないかなぁ)


泉曰く、自分は波長が似てるから三橋のことが理解しやすいだけらしいが、田島から言わせてみれば何故皆はそんなことも判らないのかと逆に不思議だ。
あの涙を見ても判らないものなのだろうか。
確かに三橋は良く泣くが、それにはその時々の理由があるわけで。
無意味な涙などないというのに。
あの少し卑屈なところだって、決して悪いことではないと思う。
それが「三橋」であり、こちらが彼の零す涙に込められている意味を拾ってやれば全ては済むことなのだから。

ふと、背後から視線を感じる。
この慣れた感じは・・・・泉だろう。


(また「あの馬鹿」とか思ってんのかな・・・・まぁいいけど)


また意識を三橋に戻すと、どうも前より酷いことになってきたらしい。
田島からはよく見えないが、なんとなくその涙が零れたんだろうことは判った。


「全く・・・・どうしようもないやつだな。・・・・そんなにやる気がないなら今すぐ教室から出て行きなさい!!」


あ、これはやばいかも。
ここまで草野が怒ることはあまりない。
三橋は何も言わないし、このまま怒り続けるかもしれない。

と、後ろで泉が椅子を引く気配がした。


「ちょっと、先せ・・・・うわっ!!?」


おそらく三橋のフォローに入ろうとしたであろう泉の言葉を、引き裂くように轟音が響く。
閃光が走り、思わず目を瞑る。


(雷・・・・か?)


外は日中とは思えないくらいの暗さになっていたので、すぐ判った。
それよりも驚いたのは前方の三橋だ。


「・・・・う、うわああああああああああああ!?」


いくらなんでもビビリすぎじゃあないだろうか。
少なくとも田島は今まで三橋がこんなに叫んだとこは見たことがなかった。

しかし、だいぶ大きな音がしたけれど雷はどこに落ちたのだろうか。
三橋のことは気になるが、今は雷の方に関心がいってしまう。
すぐ窓際まで駆けて行き窓を勢い良く開けた。


「どこどこ!!どこに落ちた!?誰か見た奴いねえの!?」


田島の興奮した様子に釣られるように集まってきたクラスメート達。
まだ注意されていないということは草野も少しは動揺してるということか。

チラリと目で草野を探すと、その前には立ち竦んでいる三橋がいた。


(あいつ何やってんだ?)


すると、草野が三橋に何か声を掛け―








パン






草野が伸ばした手を三橋が叩き落とした。
あの三橋がである。
田島は驚いたが、何故かワクワクしてきていた。


(三橋もキレることあるんだなぁ!)


今まで見たことのない三橋の一面を見つけて少し嬉しくなったのだ。
思わず三橋に駆け寄ろうと足を踏み出す。



「・・・・草野。俺に触わるな。」


(・・・・ん?・・・・)


今のは何だろうか。
引っ掛かりを感じ、足を止めて三橋を凝視する。


「な、なんだその態度は!?ええい、文句があるなら出て行きなさい!!」


・・・・




ニヤリ





「わかりました。出て行きます。」

そうして三橋は廊下へ出てどこかへ行ってしまった。










(・・・・今のって・・・・)


知らない。
田島はあんな三橋は知らなかった。
さっきの行動といい、理解できないことばかりだった。
てっきり三橋がキレただけかとも思ったが・・・・。


「・・・・・・・・・・・・」


黙ったまま後ろを振り向くと、困惑した表情の泉がいた。


「・・・・見たか?」

「・・・・ああ。あれは・・・・?」


泉も混乱しているらしい。

とりあえず今やることは一つだけだ。


「一体あいつどこ行ったんだ?」

「うーん、あっちには保健室はないしな・・・・。ここにカバンはあるから帰ったりはしないだろ。」


確かにそうだ。
となると・・・・。
「あ」、と二人揃ってポンと手を叩く。

「「屋上?」」


三橋が歩いていった方向には他には屋上くらいしか行くようなところはない。
未だに動揺している草野に「三橋を探してくる」と告げ、了承の言葉を聞く前に教室から出た。













さっきの『アレ』はなんだったのだろうか。

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