おお振り小説(一般向け)

□三橋とレン・発現B
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「三橋・・・・いると思うか?」

「そんなのわかんねーよ。とりあえず行ってみればわかるだろー?」

「そりゃそうだけどさぁ・・・・。」


屋上へ続く階段を上りながら、泉は苦笑した。


(・・・・まぁ田島らしいといえば田島らしいか)














〜〜〜発現―3〜〜〜side・IZUMI・
















さっき教室から出て行った三橋を追ってから、ものの数分。
泉と田島は屋上の扉の前にいた。
その扉に付いている覗き窓には際限なく雨が叩き付けられており、そこから屋上の様子を見ることはできなさそうだ。


「・・・・こんなとこに本当にいんのかよ」


正直、この扉を開けたくない。
どう考えても吹き込む雨で濡れるのは目に見えてるからだ。


「だってここしかないじゃん。とりあえず開けよーぜ!」


そんな泉の気持ちを知ってか知らずか、田島が少し錆び付いたドアのノブを掴む。
「あっ、馬鹿っ!」という泉の叫びも虚しく、ドアは豪快に開け放たれた。
思ったよりも雨は強くなかったが、それでも風は強いらしく二人の制服は多少濡れてしまった。


「・・・・コラ田島。」


思い切り不機嫌そうな顔をして睨む。


「わりいわりい!・・・・ってあれ三橋じゃねぇ?」


泉が雨に濡れない程度にドアを開けて隙間から覗き込んでみると・・・・なるほど、確かに三橋らしき後ろ姿が見える。
フェンスの方を向いており、教室のときのようにボーっとしているようだ。


「・・・・あいつ、何やってんだ?」


「分かんねー。・・・・おーい!!みーはーしー!そんなとこにいたら風邪引くぞー!」


田島が大声で呼ぶが三橋が動く気配がない。
声が雨に掻き消されて聞こえないのだろうか。


「・・・・三橋っ!!風邪引いたら部活できなくなるぞ!!」


こう言えば野球大好きな三橋が反応しないはずがないと踏んでのことだったが、相変わらず三橋に変化はない。
このままだと三橋が本当に風邪を引きかねない。


「仕方ない。濡れるの覚悟で引っ張ってくるしかないか。」

「後で体育着に着替えなきゃな!」


泉からしたら面倒以外のなんでもないのだが、こういうときも何故か田島は楽しそうだ。
気乗りはしないが、三橋は友達でさらに部活のエースだ。
このままここに置いていくことはできない。

覚悟を決めて屋上に飛び出す。
なるべく濡れない内に三橋を連れ戻そうかと思ったが、すぐにびしょ濡れになってしまった。
もうこうなったら、急いでもあまり変わりはない。
ゆっくりと三橋に近づいていく。
三橋のすぐ後ろでもう一度声を掛ける。


「三橋・・・・?大丈夫か?」

「・・・・・・・・」


三橋はやはり何も答えない。


「うおーい。大丈夫かー?風邪引いて熱出してこれ以上馬鹿になっても知らないぞー?」


田島がニシシと笑いながら三橋の肩に手を伸ばす。















「・・・・馬鹿に馬鹿と言われたくは無いよ。」












さっきの声だった。
田島の手を振り払い、三橋が振り返る。



「・・・・!!」






表情までさっきの通りだった。
草野を圧倒した・・・・あの表情。

ただ・・・・気のせいだろうか。
振り返る時に一瞬見えた表情は泣いているようにも見えた気がする。


「・・・・み、はし・・・・?」

「・・・・?・・・・何?」


やはりこいつは『三橋』らしい。
いや、表情や言葉使いが違うが、確かに姿形は『三橋廉』そのものであるのだが。

振り払われた手をしばらく不思議そうに見ていた田島が顔を上げる。


「・・・・お前本当に三橋なのか?」

「見た通りだけど?そこまで馬鹿だったの、『田島君』は?」


『田島君』と言った三橋は間違いなくあの『三橋』だった。
だけど・・・・。



(・・・・何だ?何か違和感が・・・・)



自分の感覚が何か“ズレ”を訴えていた。


「・・・・違う。お前は『三橋』だけど『三橋』じゃない。」

「・・・・はあ?」


こいつは何を言ってるんだろうか。
雨に打たれてますます馬鹿になったのだろうか。


「だって『三橋』はそんなにスムーズに喋らねえもん。」


・・・・あ。
そうか、違和感の正体はそれだったのか。
田島は馬鹿かと思いきやこういうことがあるから侮れない。
何か特別な嗅覚というものを持っているんじゃないだろうか。

・・・・そうじゃない。
今はそんなことはどうでもいい。


「・・・・俺は『三橋』。それ以上でもそれ以下でもないよ。ねぇ?泉君?」

「・・・・・・・・」


どういうことだ?
全く理解ができない。
確かにこいつは『三橋』だが、やはり『三橋』じゃない。
この矛盾は一体・・・・。


「・・・・そうだね。こう考えたらいいよ。」


三橋の笑みが一層深くなった。














「俺は『二重人格』なんだ。だから俺は『三橋廉』。理解できるかな?田島君?」




クックッ、と
それは明らかな嘲笑だった。
泉は思わずイラっときて三橋の胸倉を掴みそうになった。



(こいつ・・・!二重人格だって・・・・!?)




そんなことは到底信じられない。
が、しかし三橋がそんなことする必要はないだろうし、それでも自分の感覚はこいつが『三橋』だと告げている。
・・・・混乱しているうちは下手な行動にでないほうがいい。

泉が動けないでいると、田島がなんとも間延びした声を上げた。



「ああ、なるほど!!そういうことかー!」

「「・・・・は?」」



思わず三橋と声が重なってしまった。



「つまり、『三橋』の中にもう一人の『三橋』だっていうお前がいるってことだろー?」

「・・・・そ、うだね。」


三橋は一気に拍子抜けしたようだ。
その顔にはアリアリと『呆れる馬鹿だ』と書いてあった。
泉も地味にその意見には賛成しないでもない。


「前テレビか何かでやってるの見た!実際に見るの初めてだし!三橋すげー!何かすげー!」


目をキラキラさせて田島が三橋に詰め寄る。


「なーなー!にじゅうじんかくってどんな感じなんだ!?お互い考えてることわかったりすんの!?」


「・・・・はぁ・・・・。なんか馬鹿らしくなってきたよ。」


三橋は田島の質問には答えずに、脱力したように首を横に振った。
相変わらずその目つきは鋭いものの、もう明らかに見下すような雰囲気ではなくなっていた。


「・・・・田島君に泉君?それじゃあ『また』ね。」

「・・・・またって・・・え?ちょっと!おい!?」


一言言うと突然三橋の体がガクンと崩れ落ちた。
慌てて田島と二人でその体を支える。


「おいっ!三橋!?」

「どうしたー大丈夫かー?」


声を掛けても返事が無い。
どうやら意識を失ってるようだ。


「・・・・あーくそ。とりあえず校舎ん中まで運ぶぞ!」


未だに泉達は雨の真っ只中にいた。
このままでは三橋だけではなく自分達もぶっ倒れかねない。
















三橋をひとまず校舎に運ぶと、三橋の頬をペチペチと叩いてみる。
これで目が覚めなかったらこのまま保健室まで運ぶはめになるところだったが、数回目でゆるゆると三橋の目が開いた。


「お!起きたな!」


田島が笑顔で言う。


「あ・・・・たじ、まくん・・・・?」


三橋は自分がどうしてこんなところにいるのか理解できないらしく、キョロキョロ辺りを見回している。
その様子はいつもの三橋、そのままだ。


「ここ・・・なん、で?」

「何でって・・・・三橋は覚えてないのか?」


「え・・・・?」と思い切り首を捻る三橋。
どうやら懸命に思い出そうとしているらしいが・・・・。
・・・・このままだと埒があかない。
ハア、と一つ息を吐き説明してやる。


「だから・・・・お前が草野の授業中に・・・・」

「あ・・・・!そう、だ!」


思い出したか?
三橋がポツリポツリと言葉を口にしていく。


「お、れが、怒られて・・・・で・・・・いずみく・・・・達が、助けてくれて・・・・」


・・・・ん?
ちょっと待て。


「授業、きら、い・・・・俺、を・・・・屋上に連れて、きてくれ、た・・・・」


????
・・・・おいおい・・・・。




「・・・・田島・・・・。」

「いず「クシュン!!」」


突然三橋が勢いよくクシャミをした。


「・・・・とりあえず保健室行くか。田島、悪いけどもう授業終わる頃だから教室行って体育着持ってきてくれねー?もし草野になんか言われたら浜田に押し付けてくればいいから。」

「おーけー!」

「・・・・あ。」


脱兎のごとく走り始めた田島を一度引き止める。
三橋に聞こえないように小声で話す。


「・・・・さっきのことは他のやつにまだ言うなよ?」

「え、なんで?」

「なんでって・・・・あーもう、なんでも良いからまだ言うなっての!」

「?・・・・分かったよ。」











次の授業が始まるまで後10分とちょっと。

これからどうしたものかと頭が痛い泉だった。

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