おお振り小説(一般向け)

□三橋とレン・発現C
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「お!起きたな!」






三橋が目を開けた瞬間。
飛び込んできたのは田島のほっとしたような笑顔だった。










〜〜〜発現―4〜〜〜side・MIHASHI・











「大丈夫かー?」と笑顔で言う田島の顔の向こうには、暗く冷たいコンクリート造りの天井が見える。
視線を少し下にずらすと、少し錆びついた、見慣れた屋上のドアがあった。


(お、くじょう・・・・?)


自分は何故屋上にいるのだろう。
さっきまで確か数学の授業を受けていたはず・・・・。






アレ・・・・?







・・・・思い出せない。








「ここ・・・なん、で?」


「何でって・・・・三橋は覚えてないのか?」



・・・・?
どうしても思い当たる節がない。


(授業を受けて、いて・・・・せん、せいに、さされて・・・・でも、わかん、なくて・・・・)


そこから先がどうも消えてしまったかのようになっている。

うーん、と三橋が唸っていると、泉の溜息が聞こえてきた。


「だから・・・・お前が草野の授業中に・・・・」


途端にその言葉に引き出されるかのように、三橋の頭の中に様々な映像が流れ込んできた。


(・・・・教室・・・・草野先生・・・・田島君と泉君・・・・)


様々な映像が頭の中でいっきにフラッシュバックされ、一つの映像となっていく。


「あ・・・・!そう、だ!」

(そ、うだ・・・・なんで、忘れてた、んだろう)


たった今さっきの出来事なのに。


「お、れが、怒られて・・・・で・・・・いずみく・・・・達が、助けてくれて・・・・」


一つ一つの場面を指折り思い出しながら言葉にしていく。


「授業、きら、い・・・・俺、を・・・・屋上に連れて、きてくれ、た・・・・・」


何かを説明したりすることは苦手だった。
だから、断片的でもいいから出来る限り単語をしっかり喋る。
そうすればこの優しい友人二人は、きっとそれを拾ってくれるだろうから。

つっかえつっかえではあるが、何とか説明し終えて顔を上げてみると―

・・・・?
二人が何故か顔を見合わせている。
ちゃんと伝わらなかったのだろうか。
それとも、またいつもみたいに何か間違ったことを言ってしまったのだろうか。
そう思うと、すぐに目頭が熱くなってくる。


(ダ、メだダメだ・・・・ま、た・・・・泣いたら迷、惑・・・・)


ふと、違和感を感じた。
体中に何かが纏わり付いてくるような、気持ち悪い感じ。


(アレ・・・・?なんで、俺、濡れて、る・・・・?)


よくよく見てみたら3人とも全身びしょぬれ状態だった。


(たじ、ま君達も・・・・?)


三橋には屋上まで来た記憶はあれど、雨の中わざわざ外に出た覚えなどなかった。


「・・・・田島・・・・。」

「いず「クシュン!!」」


濡れてることを自覚した途端に寒気がしてきて、思わずクシャミが出てしまった。


「・・・・とりあえず保健室行くか。田島、悪いけどもう授業終わる頃だから教室行って体育着持ってきてくれねー?もし草野になんか言われたら浜田に押し付けてくればいいから。」

「おーけー!」

「・・・・あ。」


テキパキと指示を出す泉の言葉をぼーっと聞いていると、走り出した田島を泉が引き止める。

田島の耳元で小声で話をし始める。
ちらちらこちらを視線が差すのでどうやら自分に関係あることらしいことだけは判ったが、小声で話すということは・・・・


(おれ、に、聞かれたく、ないことなんだろう、な・・・・で、も、それは泉く、んが、俺に言う必要な、いってこと、だから、俺は別に気にし、なくていいん、だ)


それでも少しは気になったが、なんとかそっちを見ないようにして気にしないフリをした。


三橋は今の状況についていくのにいっぱいいっぱいだった。
まあそれは今に限ったことではないのだが。




(・・・・さ、むいな・・・・)


先に教室へと向かった田島の後姿を見送り、三橋は泉に促されながら保健室へと向かうために階段を下りていく。
冷えた体、重い足、それに何故か少し頭の中がぐらぐらしていたが、とりあえずいつも通り泉や田島の言うとおりにしておけば大丈夫だろう。

そう決め込んで、足を動かすことに意識を集中する。








その中で、三橋は自分の中の記憶の矛盾についても深く考えないようにした。

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