おお振り小説(一般向け)
□三橋とレン・発現D
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―――タッタッタッタッ―――
リズム良く響く靴音。
その材質からか、上履きというものは走ってもそこまで大きな音は出ないが、廊下の床は遠慮なくそれを響かせる。
(早くしないと次の授業間に合わねえかも・・・・)
そう考えた田島は9組の教室に向かって走る足に力を込めた。
〜〜〜発現―5〜〜〜side・TAZIMA・
田島は気付かなかったが、さっき泉が言っていた通りもうすでに休み時間になっていた。
授業で息の詰まっていた教室から抜け出すように、廊下へと人が集まって談笑やら教科書の受け渡しやらが行われている。
何度かそういうやつらにぶつかりそうになってしまい、なかなか思うように走れない。
「うわっ、何でお前濡れてんだよ?」
途中7組の近くで花井に声を掛けられた。
後ろには阿部や水谷の姿も見える。
「おー、はないにあべにみずたにだー。コレ?そりゃー屋上行ってたからな!」
「屋上?・・・・なんで雨降ってんのに屋上なんか行くんだよ?」
第一授業中じゃなかったのかと言いながら後ろで阿部が窓を見やった。
「えー、だって三橋が・・・・」
「は?三橋?三橋がどうかしたのか?」
「えーとなー・・・・」
そこで泉に釘を刺されたことを思い出す。
―他のやつにまだ言うなよ?―
(あー、ダメだ。泉についさっき言われたばっかだった)
「・・・・あーと、なんでもない!三橋と泉は今保健室で・・・・って言っても別に大した事じゃなくて・・・・あ〜、俺もう行くわ!じゃ!」
「え、ちょ、おい!?」
まだ花井が何か言っていたが聞こえないフリをする。
これ以上そこにいると、あれこれ喋ってしまいそうだった。
花井達には少し悪い気もするが、約束は約束だ。
喋るわけにはいかなかった。
9組に着くとすぐに自分の席に行き、カバンから体操着を取り出す。
「はまだー!泉と三橋の体操着取ってくれー!」
「あ?まだ体育じゃねえだろー?」
ってかお前らさっきどこ行ってたんだと浜田が言う。
「あの後俺が草野に目ぇ付けられたんだよ。本当勘弁だよな〜。」
「浜田も馬鹿だもんな〜。・・・・ってそうじゃなくて、体操着!泉から持ってくるように言われてんの!」
「泉が?そりゃ草野より怖ええな〜。・・・・おい、なんでそんなずぶ濡れ?」
やっと気付いたように、怪訝そうな顔をする浜田。
「・・・・まさか、雷でテンション上がって校庭駆け回ったとか・・・・?」
「そんな犬みたいなことしねえし。」
「いや、犬なら普通怖がるだろ」という浜田の突っ込みを無視して自分で泉の荷物から体操着を探し始める。
どうも勝手が違うからよく判らない。
・・・・いいや、適当に開けてけばどっかにあるだろ。
「・・・・あー、違う違う。こっちだって。」
そう言って一発で泉の体操着を取り出す。
「おー、すげー!すげー!なんで判んだ!?」
「なんでって・・・・いつもある程度見てるからなー。・・・・んで、三橋のはこっち。」
ほい、とまたまた一発で三橋の体操着を取り出す。
いつも自分のことだけで、すぐに走っていってしまう田島にはできない芸当だった。
「浜田やるなー!じゃあ俺のはどこに入ってる!?」
「お前は今俺の目の前で出しただろうが・・・・早く行かなくていいのか?泉達待ってんだろ?」
そうだった。
休み時間が終わらないうちに着替えなきゃならないのだからそんなにのんびりしてはいられない。
「じゃーなー!浜田ありがとー!」
「おー。次の授業遅れんなよー。」
田島は3人分の体操着を抱えるように持ちながら、来たときと同じように駆けて行った。
休み時間、残り5分とちょい。
急いで着替えれば何とか間に合うだろう。
(・・・・間に合わなくてもそのまま保健室でダラダラしてんのもいいかもっ!)
田島は少し不真面目なことを考えながら保健室のドアに手をかけた。