おお振り小説(一般向け)

□三橋とレン・発現E
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「あー、次は草野だ。だるいよー。誰か助けて〜。」


(クソが何か言ってるが無視しよ)


しばらく『クソ』が何か喚いていたが、もうその耳には届いていなかった。
すると『クソ』は標的を変えたらしい。


「花井〜。阿部が無視してくるんだけどぉ。ヒドイと思わない?」

「あーもう、うるせえ!俺に言うなっ!」


我等がキャプテンこと花井は予習に念がなく、今も迷惑そうだ。


「・・・・だとよ。水谷。花井にまで迷惑かけてんじゃねえよ。」

「お前が無視するからこうなるんだろうが!」


どうも最近花井は怒りやすい気がする。
・・・・カルシウム足りてるのか心配だ、なんて。










阿部隆也の休み時間はいつもこんな感じだった。
















〜〜〜発現―6〜〜〜side・ABE・











阿部がいつものように花井や水谷と軽口を言い合っていると、突然花井が席を立った。


「あ?どうした?」

「いやちょっと、今度の練習試合について纏めたプリント、栄口に渡すの忘れてたなと思ってさ。」


本戦が始まるまでは、百枝が定期的に練習試合を組んでいた。
新設である西浦は全てが1からのスタートであるため、情報収集は欠かせないのである。
それをするのは監督である百枝、マネージャーである篠岡、そして主将、副主将であったりする。
花井が纏めたプリントを栄口に見てもらってから部員に配布するのが今回のパターンらしい。
ちなみに阿部は授業中に軽く流し読みのみした。

何も今渡しに行かなくてもと阿部は思ったが、一度気になりだすと止まらない性分らしく、これからすぐ行くつもりらしい。


「あいつ多分次は教室移動なかった気がするしな。」

「はぁ〜。ご苦労なこった。ガンバレ主将。」


手をひらひらとさせていると、花井がため息をついた。


「・・・・お前ももうちょっと頑張ってくれ。」

「何言ってんだ。ちゃんと相手の打者については調べてあるぞ。」

「打者だけかよ!」


それは捕手である阿部にとって一番必要な情報に違いはない。
花井が何が不満なのか阿部には良く理解できなかった。


「・・・・はあ。もういい。とりあえず行ってくら〜。」

「あ、花井待って〜。俺も行くよ〜。」


何故か水谷が付いていくらしい。
水谷も1組に何か用があるようだ。
二人が行くと必然的に阿部は一人になる。
なんとなく手持ち無沙汰な感じがして阿部も付いて行くことにした。
どうせやることもない。

廊下に出ると、前から見慣れた姿が走ってくるのが見えた。


(何だアレ?)


こちらに向かって走ってくる田島は頭からバケツでも被ったんじゃないかというくらいびしょぬれで、服も肌に張り付いてところどころ透けてしまっている。
走る度に周囲に飛沫を撒き散らせていることに気付いていないのだろうか。


(気付いてるわけねー。というかあいつは気付いてても気にしねーだろうな)


いつもいつも田島はやることが色んな意味で半端がない。


「うわっ、何でお前濡れてんだよ?」


花井がもっともな疑問を口にする。
その声に田島がこちらに気付いた。


「おー、はないにあべにみずたにだー。コレ?そりゃー屋上行ってたからな!」

「屋上?・・・・なんで雨降ってんのに屋上なんか行くんだよ?」

「・・・・第一授業中じゃなかったのか?」


(この雨の中授業抜け出して屋上へ?全くこいつは何を考えてるんだか・・・・)


廊下の窓から校庭を覗くと、未だに水溜りには無数の波紋が繰り返し結ばれている。


「えー、だって三橋が・・・・」


三橋だと?
あいつまで屋上に行ったのか?
あの馬鹿、風邪引くだろうが。
肩も冷えるし・・・・ああもう。
とりあえず説明させないとな。


「えーとなー・・・・」


途端に田島の表情が曇った。
何か、葛藤しているようだ。


「・・・・あーっと、なんでもない!三橋と泉は今保健室で・・・・って言っても別に大した事じゃなくて・・・・あ〜、俺もう行くわ!じゃ!」

「え、ちょ、おい!?なんでもないって・・・・あー行っちまったか。」


少し焦ったような様子で田島は飛んでいってしまった。


(あれは逃げたな・・・・)


阿部が思案していると水谷が気楽そうな声を上げた。


「屋上に何の用だったんだろ?」

「んなの知るかよ・・・・。」


阿部には保健室という言葉が引っかかっていた。
万一三橋がどこか怪我でもしているのなら、阿部にとっても大事だ。








(後で保健室行ってみるか・・・・)


一先ず3人は1組に向かった。

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