おお振り小説(一般向け)

□三橋とレン・発現H
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パン









まさに背筋が凍るとはこのこと。

三橋が阿部の手を払った時。
一番動揺していたのは他の誰でもない、泉だった。












〜〜〜発現―9〜〜〜side・IZUMI・















「・・・・いいいずみっ、くん?どどどどーか、した、の?」


部室での一件の後、泉は三橋を引っ張って足早に9組の教室まで戻ってきていた。
教室に入るところで三橋に声を掛けられてそんな行動をしていた自分にハッと気付く。


(しまった・・・・何してんだ俺・・・・)


他のやつらにはどう考えても変に思われているだろう。
声色だけはいつも通りにしていたつもりだが、自分で考えても明らかに不自然だ。
水谷辺りは面白がるだけだろうからいいが、阿部への言い訳と他へのフォローも考えなければいけない。

自分の背後で不思議そうに泉を見詰めている三橋を見て、泉はため息をついた。










泉は三橋の異変をなるべく周囲に悟られてはいけないと思っていた。
『異変』と言うに相応しいのかもまだよく判っていないのが本音だが、それならそれでやはり事を荒立てる必要はないと踏んでのことだった。
泉は実際まだ混乱してるのかもしれない。
他の部員に相談するのも手だが、どう説明したらいいのかすら見当もついていなかった。

『三橋が二重人格だって言ったらどうする?』

そんなことを言っても、「何を馬鹿なことを言っているんだ」と一蹴されるか、おふざけだと思われて相手にされないのがオチだ。
とりあえず情報が少ないため、また何か起きないかと身構えていたつもりだった。

そんな折りに先ほどの部活の集まりだ。
何かあるかもしれないとは思っていたが、真意は何も起きないで欲しかったのかもしれない。
そのため、実際に何か起きた時にうまく動けなかった。

泉は自分は落ち着いているほうだと思っていたが、案外そうでもないらしい。











ひとまず三橋を自分の席へと座るように促し、泉はその隣の空いてる席へと腰を下ろす。
未だに不思議そうな顔をしている三橋の視線が痛い。


「あー・・・悪かったな。いきなり引っ張ってきたりして。」

「う、ううん、だいじょ、ぶだよ。どうせ、俺、が何かした、から・・・・」


またぐちぐちと自分を卑下しながら涙目になっていく三橋。


「別にお前が悪いわけじゃねえよ。・・・・気にスンナ。」


そう言って頭をポンポンと軽く叩いてやる。
「うひ」と笑って笑顔になる三橋。










「・・・・優しいね。『泉』は。」


――っ!?
反射的に席を立ってしまい椅子がガタッと音を立てた。


(こいつ・・・・!?)


思わず何か叫びかけて、ここは教室で、いきなり立ち上がった自分に周囲の視線が集中していることに気付いた。


「・・・・こっちこい。」


とりあえず教室の隅のほうの人がいないとこへと三橋を引っ張る。









「お前・・・・『あいつ』だな?」









問えば、三橋の表情がみるみる変わっていく。


「・・・・ふ・・・・ご名答。さっきぶりだね?」


目には力が篭り、さらに口は悪そうな笑みを湛えている。
ああ、これは『あいつ』だ。
先ほど一度遭遇しただけだが、これは間違いない。
普段の三橋とのギャップがそれを物語っている。


(なんでいきなりこいつが・・・・!?)


『二重人格』・・・・それがもし本当ならば、何かのスイッチとなる出来事が必要なはずだと泉は思っていた。
言わば人格の切り替えスイッチ。
つまり・・・・


(・・・・いつからだ・・・・?)

「・・・・部室・・・・?」

「・・・・へえ?気付いたんだ?」


昼休みに保健室から戻ってきたときは確かに『三橋』だった気がした。
田島とのやり取りはまさしく『三橋』そのものだった。


「阿部の手を払った時。正解だよ、泉。」


わざとらしく感心したような体を作る。


「さすがに田島とは違うね。」

「あいつと同じにするんじゃねえよ。」


何かクスクスと笑いながら『三橋』は言う。
『三橋』が部室で既に現れていたにも関らず、今まで普段と変わらない三橋を演じていたのはただの気まぐれにすぎない。
お遊びだ。
泉は自分が遊ばれたということに気付いて非常に腹立たしく思ったが、ここで怒っても何にもならない。


(ともかく・・・・何でもいいから情報を聞き出さないと・・・・)

「・・・・お前は何なんだ?」

「だから俺は三橋だよ?」

「そうじゃない。・・・・お前は『何』なんだ?」

「ああ、なるほど・・・・。」


さも面白そうに笑う『三橋』


「そうだね・・・・。泉は『何』だと思う?」

「え・・・・」


何って・・・・。


「・・・・お前は『三橋』じゃない。でも『三橋』だ。今のところそれくらいのことしかわからねえよ。」


泉は思っていることをそのまま率直に言った。
・・・・うわ、何だか田島みたいだな。


「まぁ、それが普通だよね。上出来上出来。」


何か品定めでもするかのように泉を見る三橋。
その余裕たっぷりな視線が何か嫌で、泉は思わず睨みで返してしまう。


「心配しなくてもいいよ。」


『三橋』はそこで一旦言葉を切る。


「あくまで俺は三橋なんだから。・・・・と、来たかな。」


三橋の視線を追うと教室の入り口に田島の姿が見えた。


「あー、いたいた。何してんだよー。」


田島がこちらに歩み寄ってくる。


「おー!やっぱりお前『あいつ』じゃん、さっきぶり!」


やっぱり・・・・?


「さっきも思ったんだけどさー。お前いきなり出てくんなよな、ちょっとびっくりしたじゃんかー。」

「な・・・・お前気付いてたのか?」

「当たり前じゃん?」


だったら言え、と。
これだから田島には敵う気がしない。


「そーそー、お前にいっぱい聞きたいことあるんだよな!」


田島が三橋にさらに迫る。



「・・・・残念。時間だね。」


その言葉と同時に計ったかのようにチャイムが鳴り出し、『三橋』が席へと戻ろうとする。
・・・・直感だが、こいつ消える気だ。


「ちょっと、待て・・・・三橋!」


名前を呼ぶと一瞬その動きが止まる。


「・・・・『レン』。そう呼びなよ。『三橋』じゃあ区別つかな、いで、しょ?」


最後の方は『三橋』の喋り方だった。
それからの授業の様子を見ていると、どうも無事に『三橋』に戻ったらしい。



















これが『こいつ』との出会い。




『レン』の発現だった。

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