おお振り小説(一般向け)

□栄口君の考察。
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「こぉら、水谷てめぇ!」

「ああああ阿部ぇ〜!ちょっと待ってってば!ストップストップ!!」



またか。
いい加減飽きないものかなー。
ドタドタドタという荒い足音とともに、見慣れた姿が自分の席に座っている栄口の後ろに回りこんできた。

―え?何が起きたかって?


「栄口ィ〜!阿部に何とか言ってやってよ〜!!」


・・・・わかる、よね?

水谷は花井が近くにいないときに良く俺のところに逃げてくるんだけど。
・・・・正直めんどくさい。
だってもう何度目だと思う?
花井は花井で最初こそは呆れつつもきっちり相手をしていたみたいだけど、今になっては事前に察知して逃げちゃうみたいだし・・・・まぁそのほうが賢い判断かもしれないけど。

俺は一つため息を吐く。


「・・・あのさ、水谷。何でいちいちうちのクラスに来るわけ?遠いっしょ?」

「だって阿部が阿部らしく人でなしなんだもん〜!」


何だそれ、理由になってないし。


「・・・んだコラ、喧嘩売ってんのか?」


そして目の前には阿部の顔。

うん、まぁいつものパターン。
言っててちょっと悲しくなるけど。


「・・・・あーもう、どうでもいいけど俺を挟まないでくれる?特に阿部。目が怖い。」

「・・・・うるせぇよ。」


阿部がそう言い捨てた後、小さく舌打ちをしてきびすを返す。


「ぁー、怖かった〜。」


その恐怖を連れてきた張本人が後ろで安堵の息をもらす。


「それはこっちのセリフ。で、今日は何なのさ?」

「それがさぁ〜・・・・。」


これがまたいつも大したことじゃないんだよね。
この前は・・・・なんだったかな・・・・。
・・・・あーそうだ。阿部のノートに水谷が落書きしてパラパラ漫画作ったんだ。
そんなんでキレる阿部も阿部だけど、わざわざ阿部のノートに落書きする水谷も相当だと思う。


「―というわけでぇ〜。」

「・・・・はぁ?」

「だって、栄口もそう思うでしょー?阿部のあのタレ目を一度上げた状態、つまり釣り目にしてみたくない?」


よくそんなことを思い付くものだ。
でも・・・・まぁ・・・・確かに・・・・。


「・・・・うーん、ちょっと面白そうかも。」


イマイチ想像出来ないから見てみたい、というのが本音。


「でしょ!?だからさー、直接『上げてー』って頼んだんだけどさぁ・・・・。」


そりゃあ、そんなめんどくさいことを素直に聞き入れるやつじゃないよね。


「だから、中休みに阿部が花井と勉強してる隙を付いて後ろから〜。」


そう言って自分の両目の端を人差し指で軽く押し上げて見せる。


「・・・・それで阿部がキレたわけだ。」


阿部もちょっと・・・・いや、かなり短気なところがあるからね。水谷が鬱陶しいってのは少し分かる気がするけれども。

・・・・ん?ちょっと待てよ?


「その時花井も一緒にいたんだよね?」

「え、うん。」


それなら阿部がもしキレても花井がなんとかしてくれるんじゃないの?


「あー、それがねー。そん時花井は阿部と向かい合うように座ってたんだけどね。」


うんうん、それで?


「俺がやった瞬間爆笑しちゃってねー。動けなかったみたい。」

・・・・え。


「俺も見たかったのに〜。」と悔しそうな水谷。

つまりだ。
笑って動けなくなるほど面白かったわけだ。
阿部の釣り目が。


・・・・ちょっと興味が沸いてきたかも。


後で花井に話でも聞いてみよう。









「・・・・おーい、水谷ィー。次の授業始まっぞー。」


廊下から花井の声がした。
「ん?」とそちらを見た水谷。その脇に抱えられているものを見て―。


「あ!次教室移動じゃん!じゃ、栄口また部活でね〜!」


慌てた様子でひらひらと手を振り教室を出て行く。
それに釣られるように思わず俺も手を振り返してしまった。


「う〜、あんまり時間ない・・・・教科書取り行くの間に合うかな〜。」


その時花井の後ろから遅れて阿部がやってきた。
阿部も当然ながら教科書を持っていた。
何故か二冊。


「あー!俺の教科書でしょそれ!?持ってきてくれたんだ〜!意外とやさしー!」


水谷が阿部の手から自分の教科書を取ろうと手を伸ばす。
が、阿部はスイッとそれを避ける。


「やかましい。今すぐこれ捨ててやろうか。」


あらま、まだ機嫌は直ってないみたい。


「こら、阿部。お前が教室から追い出したようなもんだろ。」


大方教室に戻ったときに、花井が持ってってやるように言ったんだろう。


「はぁ?もとはと言えばこいつが・・・・クソ、もういい。先行く。」


めんどくさくなったのか、諦めたのか、水谷に一冊教科書を投げ、そのままズンズンと行ってしまった。
やれやれ、と花井がため息を吐く。



そこで俺は思い出したことを口にした。


「花井。」

「ん?」


チョイチョイと手をこまねいて傍に呼ぶ。


「何?」

「・・・・あのさ、阿部の・・・・釣り目、かな?どうだっt「ぷ・・・・ぶわっはっはっは!!」」


その反応に自分で質問しといて驚いた。


「お前・・・・やっと、忘れかけてたのに、思い、出させる、なよ・・・・うくくっ・・・・!」


未だに肩を震わせて笑いを堪えている花井に水谷が言う。


「そーそー。あの時どんな感じだったのー?無茶苦茶気になるんですけどー?」

「ぷぷ・・・そ、そうだな。あれはもう、こ「黙れナマハゲキャプ。」」


・・・・阿部いつの間に戻って来てたんだ。


「あ、阿部?別にそこまで気にしなくてもいいんじ「クソレフト。今すぐド・クソレフトに改名してやろうか?」」

「え、おい、ちょっとっ!阿部ってばっ!」

「黙れ、ド・クソレフト。」


そのまま二人は阿部に押されて行ってしまった。


・・・・釣り目に関してはまたこっそりと花井に教えてもらおう。
















一人残された自教室で栄口はクスリと笑った。





しかしまぁ、あれでもナイストリオなんだろう。

阿部があんな風に言い合いを出来るのは水谷や花井ぐらいだ。
三橋とはそもそも意志の疎通が出来ているか危ういからそこまで発展し難いし、田島にはもう何か言っても無駄で、そのペースのまま丸め込まれるのがオチ。
その他の連中はある程度距離を持つから喧嘩なんてしないだろうしね。

だから良いストレス発散にでもなってるんだろうと思う。
阿部だっていつも本気で怒っているわけではないし、水谷もそれが分かっていて一線を守っている・・・・はず・・・・多分。
そこに、何かあると放っておけない花井がいる・・・・ほら、実はかなりバランスいいんじゃないかな?











だから俺はちょっと距離を置いて見てることにしよう。

もし、花井の手が二人に届かなくなったときにいつでも手を差し伸べてあげられるように。









それがきっと、3人に対する俺の役目。











・・・・面白いし、ね?

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