とあるマネージャーの青春物語

□『一緒に、日本一目指そう?』
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『一緒に、日本一を目指そう?』




常葉リオは困っていた。

今日は珍しく午後練のない日曜日だから、たまには一人でブラブラ散歩に行こうと家を出てきた。
特に目的も無く、本屋にでも行こうかな〜と考えていたところで今回のコレを見つけてしまったのだ。


コレというのは今拾ったばかりの大きな白いリボンを胸につけたとても愛らしい手乗りサイズのテディベア。
リボンはフリル満載、顔付きもとても愛嬌のある可愛いやつ。


新品そのもののそれが道上に転がっていて、たまたま目が合ってしまいついつい拾ってしまったのだ。

そこまではいい。

おそらく小さな子どもの落とし物だろうから警察に届ければいいのだから。

だが、その数メートル先に何かを懸命に探している人がいる。
普段ならばちょっと勇気を出して貴方のですか?と言えばいいのだが…何が言いたいかというと、その探している人物が問題だ。


下を見ながら「無い…無いのだよ…」と呟くその人はどう見ても男性である。
オマケにとてもガタイが良さそうな身体を俯かせて歩く姿はハッキリ言って怖いし怪しい。
下を向いたままなので顔までは分からないが、出来ることなら素通りしたい光景だ。


緑色という珍しい髪色の彼がいましがた拾ったテディベアを探しているかは定かではないが……………万一、もしかしたら、彼の妹的な人が無くしてしまったものかもしれない。



泣きつかれて仕方がなしに探しているのだとしたら…。


そう思うとリオの中で緑色の彼が怪しい人物から妹の為に頑張ってテディベアを探す素晴らしいお兄ちゃんに成り代わった。
まだそうだと決まっていないにも関わらず。単純な思考回路である。



な…何ていい人なんだろう!!



先程までの戸惑いはどこへやら。

リオは声をかけるべく緑色の彼の元へ歩を進めた。




『あの…そこの緑色のお兄さんっ』

「…む、俺のことか?」

『は、はいっあの…もしかして、探し物はこれですか?』




手に持っていたテディベアを差し出すと、緑色の彼は目を見開いて「くま吉っ」と言いながら受け取った。

…くま吉?あ、妹さんがテディベアに付けた名前か。

未だ妹がいると信じ込んでいるリオは一人納得する。


緑色の彼はテディベアを受け取り、それが確かに自分が持っていたものだと分かると安心したように小さく溜め息をついた。




「…確かにこれは俺が落としたものだ。礼を言うのだよ」

『あ、いえいえ〜こんなときはお互い様です、か…ら……』




立ち上がりリオを見下ろしながら淡々と礼を言う彼は中々の長身の持ち主だったようで、思わず頬が引きつる。


いやいや、ここでビビっちゃいけない。


そんなリオに気付かず、ずれた眼鏡を右手で直しながらテーピングされた左手にテディベアを乗せる緑色の彼。

中々端正な顔立ちをしている様で、その姿がさまになっているもののちょっとおかしい気がする。
主に左手の部分。…妹さんの物ですよね。




「これは今日のラッキーアイテムだったのだ。無くしては人事を尽くせなくなるところだった」

『ラッキーアイテム…?』

「おは朝のラッキーアイテムだ。知らないのか?」




知りません。
とは言えず、曖昧に笑うしかない。

おは朝と言えば朝のテレビ番組の名前だ。
その中に占いコーナーがあり、よく当たるとクラスメイトが噂していた。

そういえば家を出る前観たな〜と思いながらも疑問は増えるばかり。

つまり彼は、今日のラッキーアイテムだからこの可愛らしいテディベアを持ち歩いているとでもいうのだろうか。

聞くとその通りだと至極当然の様に答えが帰ってきた。


当たり前だろうと言わんばかりのドヤ顔に思わず謝りたくなる。妹さんはどうした。




『えっあの…妹さんの探し物ではなく…?』

「?俺に妹は居ないのだよ」




これまたキッパリと返され、もはや何も言えなくなってしまったリオ。


しまった、話しかけてはいけない人だったのかもしれないと失礼な事を考えながら青ざめても既に遅い。


絶句するリオを余所に緑色の彼はふと何かを見つけて目を見開いた。

彼が見つけたのはリオが肩からかけている鞄からひょっこり顔を出すくったりとした猫のぬいぐるみのキーホルダーだ。





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